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かなしみの妖精
洞窟の奥で、誰かが泣いていた。
「どうしたの? ケガでもしたの?」
泣き声を頼りに進んでいくと、ぼうっと光る少女がいた。
少女は言った。
「わたしはかなしみの妖精だから、泣いているんです。」
「ずっと?」
「はい。」
「辛くない?」
「だから泣いているんです。」
「面白い顔してあげようか。
かなしくてもさ、笑えるときってあるよ。
ウツの友達がそうなんだ。」
かなしみの妖精は言った。
「わたしは『かなしみの』妖精です。わたしがかなしくなくなるということは、わたしが消えるということです。」
「……そうなんだ。人ならよかったね。人ならさ、神様に見放されてる気がするときがあっても、また回復するし。」
「神様は人間を許しておられます。だからチャンスをお与えになった。わたしたち妖精は、神様の書物に名前を記されていません。」
かなしみの妖精は話す間もずっと泣いていた。
かなしみが癒えることは消滅すること……。
僕は洞窟を出た。
しらふでもわかる絶望があることを知って。
さざ波を見て、ふと洞窟をふり返った。
『聖書なんて、しょせん人間を通して書かれた物にすぎないよ。』
そう言いに戻ろうかと思った。
だけど、やめた。
聖書が本当に神からの手紙だとしたら?
かなしくても生きていたいという人はたくさんいる。
かなしみの妖精だって、そうかも知れない。
だけど……。
僕はその場に立ち尽くした。
今も心はその場にいる。
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