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保存メール
『頑張らされ続けることに、もう疲れたよ。』
そんな保存メールが残っていた。
同様のメールがいくつも保存されていた。
入院するはずだった日の朝のことだった。
入院の準備は、されていなかった。
ゆうべ春香が彼女に電話したとき、彼女は「自分でできる。」と言った。もともと頑張り屋というか、『頑張れる自分』のイメージにすがって生きていたような子だった。
だから、手伝いには来なかった。
こういうときは、こっそり親なりきょうだいなりが準備することがほとんどだ。
だが、彼女の家は厳しかった。
いつもだらだらしているのだから、自分の入院の準備くらい、自分でするようにと言ったらしい。
いつも頑張ればできるのだから、と。
担当だった福祉士も、同じ見方をしたらしい。
彼女は最後の言葉を発信しなかった。
命だけ助けられるのが、生き延びさせられるのが、もう本当に嫌だったのだろう。
「………このスマホ、遺品としていただいてもかまいませんか?」
春香は、泣いている彼女の親に尋ねた。
「え? ええ。」
妙にしらふな声で、彼女の親は承諾した。
春香は考えていた。
葬式は、私たち通院仲間で行えないだろうかと。
親もきょうだいも医師も排除して。
彼女を殺した人間たちが、彼女の葬式を行うなんて、おかしいだろう。
春香は怒りで少し気が高ぶっていたのかもしれない。
自覚のないまま、春香は仲間に電話した。
彼女の親は、彼女の友人らに連絡することすら、していなかった。
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