診察室ミニパニック

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診察室ミニパニック

 診察室で、痴呆の疑いのある患者に問いが出された。 「私がスタートと言ったら、そこから1分の間に、なるべくたくさん動物の名前を言ってください。」 「わかりました。」 「では、スタート。」  患者は意外にも、のっけから飛ばした。書き留める医師の手がもつれそうなほどだ。  ふと、患者の口が止まった。 「まだ時間ありますよ。」  医師が促すと、患者は言った。 「カブトムシは、動物に入りますか?」 「は?」 「昆虫は動物じゃないですか? でも『動くもの』だから動物ですか?」  思わぬ展開に医師は固まった。  患者は答えがないと見ると、黙った。  医師はストップウォッチを見て言った。 「まだ時間残ってますよ。」 「え?!………た、タスマニアデビル、ペリカン、しろながすくじら……は、魚類ですか? 哺乳類? 動物って哺乳類のことですか? あ、そしたらペリカンは……」 「はい、時間終了です。」  助かった、と医師は内心思った。  診断結果はその日のうちに付き添い人に伝えられることになっていたが、別の検査も受けてから後日伝えられることになった。
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