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その一言が出るなら
丘の上で自死を図った青年は、かけつけた友の膝の上で虫の息だった。
友は青年の身体を少し起こして言った。
「ほら、見ろよ。向こうのアーモンドの樹。もうすぐ咲くな。」
青年は薄く目を開けて、故郷の景色を眺めた。
もうすぐアーモンドと林檎の花の咲く季節がやってくる……。
青年が言った。
「フィナンシェと焼き林檎が食べたいな……」
友は涙を流した。
「その一言が欲しかったんだ。」
花より団子 ─── 青年に、生きる欲が出た瞬間だった。
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