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「一台は暴力団事務所の車……殺害された三人のものか。もう一台の所有者は武田・睦雄……行方不明」
報告内容を口に昇らせると、目の前で大和が口を開く。
「如何にも何かあった組み合わせじゃないッスか。その行方不明ってのが殺された人……あれ?」
大和が自分で口にした言葉に、矛盾を感じたのか首を捻っていた。
世希は資料に目を向けたまま補足として言葉を返してやる。
「少し違う、殺害されたのは暴力団関係者三名だ。行方不明になっている武田という男が魔法使いだったんだろう。そして武田は運悪く「協会」の魔法使いと遭遇し、その場で殺されたと私は見ている」
現場に残された焼け跡がきっとそれに違いない。
世希は更に言葉を継ぎ、
「この数日間で「協会」――この外套男の目的が「魔法使いを殺すこと」だと分かった。即ち「協会」の目的も必然的に「魔法使い狩り」と考えられる」
こちらの言葉に、大和が身体を反らして驚きを表す。
「「魔法使い狩り」!? でも一体何のために?」
「それは私にも分からん。透を含め、この一カ月の間で国内に現れた「魔法使い」は、あの男が生み出したものであって、「協会」とは関係が無い」
だというのに、「協会」はいつの間にか日本に現れ、「魔法使い」を狙って襲い始めている。
……いや待て……「協会」と無関係な「魔法使い」だからこそ、という可能性もある。
二十年以上も前から、「協会」は外部へ魔法を持ち出すことを厳しく禁じている組織だ。無関係とは言え、外部で「魔法」を行使する者が現れたことに対し、行動を開始したとも取れる。
「やはり「無弾」事件が全ての始まりか……」
「なにがッスか?」
「「無弾」事件の際、「協会」に連絡を取っていたことが、今回の事件の引き金となった可能性が高い。「協会」に対し、「魔法使い」の存在が外部にいると、知らせてしまった要因だろう」
こちらの話に、大和は沈黙している。
目の前のこの若者もまた、「無弾」事件の際に「魔法使い」となった者であり、彼の協力が無ければ「無弾」事件は解決に導けなかった。
……透には随分苦労をかけたな。今後は気を付けなければ……。
と、世希が思った直後、大和が口を開く。
「世希さん……俺気付いたんですけど」
「何をだ?」
「その外套男が「魔法使い」を狙ってるなら、俺も狙われる可能性あるってことじゃないッスか?」
問われた言葉に、世希は沈黙する。
「…………」
それどころか、特捜二課内の全員が言葉を失って、こちらに視線を送って来ていた。
「あの――」
大和が何か言葉を発するより早く、世希は椅子から立ち上がって大和の両肩を掴んだ。
「透、勉強に戻れ。作戦は私が考えておく」
「いやいやいや今の流れ! 明らかに俺を餌にするつもりですよねぇ!?」
「ははは、心配するな。透は特捜二課にとって重要なおと――捜査員だからな」
「今この人「囮」って言おうとした! 俺のこと「囮」って言おうとしたー!!」
他の面々の気まずそうな視線を余所に、世希は大和を主軸に据えた、外套男をおびき出す作戦を立て始めた。
今しばらく大和には苦労をかけることになるだろうが、若い内は買ってでも苦労することも経験である。
無論――内心の前言は撤回した。
◇
イゴール・フレスヴェルクは「協会」から送り込まれた刺客である。
彼を始め、「協会」から日本へやって来た刺客は他にも複数いる。
千葉県という地方にやって来たのが、たまたまこの男だっただけのことだ。
「ぐはっ――!」
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