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手には大きめの古びたトランクケース。何が入っているかはわからないが、重さも感じさせず片手に提げている。
傍から見れば、秋葉原などのメイド喫茶などで仕事している、コスプレ好きのコンパニオンくらいにしか思わないだろう。
何より、千葉駅はオタクがこぞって集まるような街でもない。こんな場所でコスプレをしているだけで、周囲からは浮いて見え、衆目の好奇な視線を集めるはずだ。
しかし、近くを行き交う人々は一切彼女に目もくれていない。
まるで興味が無いように、或いはメイドの姿に気付いていないように。彼女とすれ違っていく人々も、これだけ目立つ格好をしているメイドが通り過ぎても、誰一人振り返りもしない。
「…………」
メイドは足を止め、これから進むべき方角を目にする。
チャリッ、とメイドの首からぶら下がっているペンダントが音を立てた。十字架をあしらった形状をしているが、なぜかそれは上下逆さまにぶら下げられている。
無言で行き先を定め、再び歩き出したメイドは、やがて交差点のある千葉街道に突き当たった。
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