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イゴールの目の前で、ボロボロになった男が路上に倒れ込む。
「答えろ。貴様が扱うその「魔法」……一体どうやって手に入れた? なぜ貴様にそれが使える?」
男の胸元を踏みつけ、イゴールは威圧する低い声で問いを放った。
今イゴールの居る場所は銚子の港地区の一角。目の前で転がされている男から、魔法反応を探知したためにこうして尋問を開始したのだが、
「し、知らねえ! 俺は何も知らねえよ!」
「何も知らずに魔法が使えるものか。知っていることを全部話せ、そうすれば手心を加えてやるぞ」
ここに至るまでに、イゴールは相当数の「魔法使い」を亡き者にしてきた。
手当たり次第、「魔法使い」は問答無用で焼き殺してきたため、イゴールは日本に蔓延し始めている「魔法」についての情報を、一切入手できていなかったのだ。
後先考えない行動は、「協会」内でも指摘されたことのあるイゴールだが、これだけ始末してきても後から湧いて出て来る以上、嫌でも情報を引き出さざるを得なくなっていた。
目の前で足蹴にしている男は、イゴールの並外れた力に恐怖し、ガタガタと震えながら口を開いた。
「ほ、本当に何も知らねえんだ。気付いたら変な館の前に居て、館の主を名乗る男から「魔法を与えてやる」って言われて……」
男の口から出てきた言葉に、イゴールは眉をひそめた。
「館の主? 何者だそいつは?」
「名前は名乗ってなかった……「マスター」とだけしか」
「「マスター」……」
イゴールの記憶にそのような者はいない。そもそも「協会」から魔法使いたちが送られてくる以前に、「協会」から抜け出た魔法使いはい一人もいないのだ。
……まさか「協会」以外に「魔法」を使える存在が?
イゴールはこれまで、自分が焼き殺して来た「魔法使い」が扱っていた、異質な「魔法」について思い出す。
あんな「魔法」は、「協会」屈指の魔法使い達のものでも見たことが無い。それを何の制約も無く、ただの一般人にしか見えない連中が使っていることが異様だった。
「その館はどこにある?」
「詳しい場所は分からない。以前、近くの港で足を踏み外して、海に落ちたと思ったらそこにいたんだ」
転移魔法でも使っているのか、とイゴールは考える。
「貴様らが扱う未知の「魔法」……それを与えたのが「マスター」という男なのだな?」
「そ、そうだ……知ってることはそれくらいだ、だから助け――」
「そうか、もう貴様に用は無くなった」
え、と男の口から声が漏れる。
イゴールは男の身体から足を退かすと、その場で踵を返した。
男が上体を起こす気配があるが、それを確認することもせず、イゴールは右手を大きく外へと払いながら、人差し指と中指に嵌めた指輪を合わせ擦った。
直後、背後で大火炎が巻き起こる。
「――がっ!? がああああああぁ!!」
男の断末魔を背に受け、イゴールは無数の指輪や腕輪を付けた両腕を外套の下に仕舞いこみ、現場から歩き去っていく。
彼の身に着けている指輪と腕輪の数々は、「導具」と呼ばれるマジックアイテムだ。
この一つ一つに、様々な魔法の発動式が封じ込まれており、膨大なマナを溜めこむことで、本来なら時間のかかる詠唱を、無詠唱で魔法の発動を可能にするために用いられる。
一度使ってしまうと溜めこんでいたマナは失われてしまうが、再度マナを溜めこめば再利用が可能となる優れものだ。
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