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吉田の言通り、ここ毎日一件以上は必ずと言っていいほど、放火に関する報告が入って来るようになった。
ところが犯行時間が夜であることと、事後であることからも分かる通り、外套男の目撃情報は一つも入ってこない。
「千葉県全域の警察署には全て写真を配布して、外套の男を見かけたら即座に連絡を入れるよう手配済みです」
斎藤がそう言ってくるが、それらしい連絡は今のところ入って来る様子が無い。
行方の暗まし方も「無弾」の時とは訳が違うようで、近隣の防犯カメラからもそれらしい姿は確認されていなかった。
「それこそ転移魔法……っていうの? 移動にも魔法使われてたら、いくら何でも追いかけられないしなぁ」
田口がお手上げポーズでそんなことを口走る。
仮にそんな魔法で移動できるのならば、居場所を特定するのは難しい。
「移動に魔法を使っていると仮定したら、逆に葵警部の今回の作戦にも引っかかりやすい、と言えるのでは?」
田口の発言に対し、即座に稗田が言葉を返した。言われてみればそうだな、と大和も納得する。
続いて世希から出てきた言葉は、
「魔法で移動しているなら好都合だが、犯行現場の順番から見てそれは無いだろう。奴は恐らく徒歩だ」
更に彼女は「問題はそこではない」と続ける。
「もしもこれ以降、奴の近場に「魔法使い」が潜んでいたり新たに発生した場合、そちらを優先して行動されてしまう。奴にもみだりに魔法使いをこれ以上産まないよう、釘を刺しに行かなければならないだろう」
つまりまたマギ・メディエイションを訪れる必要がある、ということだ。
……それってもっと早い段階に釘刺しておくべきだったんじゃ?
反射的に大和はそう考える。仮に世希がマスターに進言して、マスターがそれを受け入れるとも思えなかったが。
「私はこの後マギ・メディエイションへ赴く。透、お前も一緒に来てもらう」
世希から突然発表された言葉に、大和は自らの顔を指差して固まる。
「え……? 俺もッスか?」
大和が疑問形で返す理由。そもそも世希はマスターから名刺を受け取っているため、単身でもマギ・メディエイションを訪れることは可能である。
そうであるにもかかわらず、世希は大和に同伴を強制してきていることが疑問なのだ。
「当然だろう? 私一人で飛び込んで、何かあっても困るからな」
大和は思った。自分が行ったところで何の役にも立たないだろう、と。
「お前たちは引き続き捜査と情報収集に当たってくれ。万が一外套男と遭遇したとしても交戦は避けろ。いいな?」
「「「「了解」」」」
役割分担は決まったようだ。
大和は「またあの辺鄙な場所に出向くのか」と、沈鬱になっていく気持ちを抑え、静かに身支度を整えることにした。
――世希の車に乗り込み、本部を出た大和は、助手席で頬杖を突きながら、
「今度はどこが入り口なんです? まさかまた君津市とか?」
世希に尋ねると、彼女の口からは「いいや」と否定の言葉が返る。
「昨晩確認したら、都合よく習志野市に変わっていた。偶然なのか奴が気を利かせたのか知らんが、近いに越したことは無い」
「だから急にマギ・メディエイションに行くなんて言い出したんですね」
大和が呟くと、世希も短く「そうだ」と肯定する。
今月に入って二回目の訪問となるが、今回の目的はまず「マスターにこれ以上魔法を斡旋させないよう釘を刺すこと」だ。
マギ・メディエイションとは魔法を斡旋する魔法結社である。言ってみれば組織の営業目的を妨害しようという話だ。マスターがこの提案を素直に聞き入れるとも思えない。
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