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「今回は「協会」も絡んでいる。少なからず奴が情報を知っているはずだ」
世希が言うように、「協会」の魔法使いに関する情報はマスターから齎されたものである。マスターなら、今回の捜査に必要なヒントを持っているのは確実だろう。
二十分ほどで車は習志野市を走る京成本線を跨ぎ、北側にある一角――スパリゾートと書かれた施設の駐車場に入って行く。
車から降りた大和は、先を行く世希の後を追って施設の裏側へと向かっていく。
「場所はここの裏手になっているようだが……」
「裏手って、立ち入って大丈夫なんですか?」
「普通に考えたら関係者以外立ち入り禁止だ。しかし事情が事情なのでな、無理にでも通る」
大和は内心で「わあ、国家権力万歳」と唱えた。
二人揃って施設の裏に回ると、巨大な室外機がまず目に入る。
民家の塀と室外機の間には、ギリギリ一人通れる程度のスペースが開いていた。
「「狭間」の影響とは言え、もう少しましな場所に入り口を用意できないのだろうか……」
言いつつも、世希はその隙間に身体を滑り込ませていく。
大和もその後に続くが、傍から見ると中々に間抜けな光景だ。施設の関係者に見られていないことを祈るばかりである。
室外機の前を通り抜けた辺りで違和感は来た。前を行く世希が反応を示し、
「――! ここからか」
続いて大和にも、平衡感覚を失いそうになる、眩暈にも似た感覚が襲って来た。
「うぅっ……何回体験しても慣れない感じ……気持ち悪っ」
やがて平衡感覚が元に戻ると、周囲の景色は大きく変わっていた。
目の前には見慣れた洋館――魔法結社マギ・メディエイションが二人を出迎えるように建っている。
「留守……ではないよな」
世希は大和を置き去りにして、どんどん先へ進んでいく。
玄関扉の前に二人が辿り着くと、ノックをする前に扉は向こうから勝手に開いた。
出迎えてくれるのは、メイド服姿の少女、アイリである。
「あ、いらっしゃいませですお客様。中へどうぞです」
中へ促され、二人は館へと入って行く。
――二人が通されたのは、いつもの応接室だ。
調度品も何も置かれていない簡素な部屋の中、中央のテーブルに砂時計が置かれ、ソファに腰かけているのは、この館の主・マスターである。
「やあ、待っていたよ。しかし透・大和、君も一緒だったとは残念だ」
「どういう意味ッスかそれ?」
「素敵なレディと二人きりでお茶を楽しむのが、私にとって何物にも代えがたい娯楽でね」
要するに男は邪魔、ということだろう。
そんなマスターの言葉をスルーして、世希がソファに腰かけながら口を開いた。
「馬鹿なことをぬかしていないで、さっさと本題に入るぞ」
だいぶ急いでいるな、と思いながら大和も隣に腰を下ろした。
マスターもこちらがソファに座ると同時、予め言葉を用意していたかのように口を開いた。
「今回は聞きたいことがある……というわけではなさそうだね。顔にそう書いてあるよ?」
笑みを崩さないマスターの物言いに、しかし世希が努めて真剣な表情で口を開く。
「単刀直入に言う。これ以上「魔法使い」を増やすな」
「ふむ。確かにいきなりだが、そう言われるのは織り込み済みだよ」
「ならば――」
世希が言葉を続けようとした矢先、マスターが首を横に振りながらその先を遮る。
「残念だが女性の頼み事であっても、それはできないことだ」
「それはなぜだ。貴様が魔法使いを増やし、世の中に魔法を蔓延させることに一体何の得がある?」
世希はマスターに問う。
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