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「そう、だろうなあ。俺さ、もう、たまんなくなって・・。有佳に腹も立つし、自分が情けなくなるし、竜が不憫だし・・。でも、わかったのは、竜にとってヨギちゃんはもう母親の役割を果たす存在なんだってこと。一般的な母親がどういうものかなんて理解できてないだろうけど、母親にやってもらいたいことをヨギちゃんがやってくれているということ。今のヨギちゃんは、きっと有佳より竜のことをわかってる。世界でいちばん、あ、いや、俺の次に、な、竜のことを知っている。俺はそう思う」
そう言うと木崎は立ちあがり、部屋の反対側へと歩いていった。チェストの上に置いてある書類入れの小抽出しを開け、なかの紙片の何枚かを手に戻ってくる。「でも、パパが時々ヨギちゃんと喧嘩するのはいやなんだって。ほら」
木崎がダイニングテーブルに置いたのは、見慣れたレポート用紙に書かれた夕食後の竜の手紙だった。
一枚めには拙いひらがなで『よぎちゃん えんえん ぱぱ ごめん』とある。
「これさ、あの日、だよな。ヨギちゃんが、竜に妹ができることを知って、店に怒鳴り込んできた日。『えんえん』ってのは、ヨギちゃんが泣いたってことだ。ほら、言ってたじゃないか、竜は『な』が難しいって。ヨギちゃんが泣いてるから、パパは謝れってことなんだよな。俺、これ読んで、俺が泣いたわ」
木崎の苦笑を見て、ほかのレポート用紙に目を落とした。
『ぱぱ ごめん した』『ぱぱ ごめん する』『よぎちゃん ごめん ぱぱ ごめん』
そして最後の一枚は『ぱぱ ごめん しなさい』。
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