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 シャワーの温度を少し上げて、身体の泡を流した。 「さあ、シャンプーするよ。はい、ここ座って」と、小さな腰掛けをリュウの前に置いた。 「えー、いやだあ」 「いやじゃない。髪の毛、さらさらーってしたら、もっといい男になるよ」 「パパみたいな?」 「そう、パパみたいに」  くすくす笑いが洩れた。頭のなかはさっき見たボクサーパンツとスウェット姿だ。  子どものシャンプーなんてどうすればいいのかわからないし、ここには子ども用のシャンプーハットなんて洒落たものはないが、とりあえず自分がされたようにやってみようと思った。  椅子に座ったリュウの頭を少しのけぞらせて、シャンプーを泡立てる。 「目、つぶっててよ」 「だいじょうぶだよ。手でとめる」と、両手を額に乗せた。  手早く洗って、流すよ、と背中に触れたら、すんなりと前屈みのポジションをとって耳を押さえた。きっと、ぎゅっ、と目を閉じているはずだ。 「気持ちいいだろー。ああ、なんかわたしもシャンプーしたくなってきちゃった」  そうだ、昨夜は軽くシャワーを浴びただけだった。木崎があまりにも性急だったから。 「すれば」と、リュウが大人の口ぶりで事もなげに言う。  コンディショナーも軽く塗って、流しながら己の姿を見てみれば、慣れない作業でスウェットの前はびしょ濡れで、パンツの裾も水気を含んで重くずり落ちてきている。浴室のなかは湯気が充満してリラックス効果満点だ。今日の午後は予定がないし、木崎とだらだら過ごしてもいいと思っていたから、もうこうなったら一日のすべてをリュウのために費やしてやろうと、聖子は心を固めた。  家へ帰っても読書かビデオだ。それはそれで充実して好きな時間だが、今日はなんだか生きている人間のほうが面白そうじゃないか。それに、いきなり『パパ』と悪臭に起こされて、そのままずっと身体中が緊張していた。ここらで少々解放してやってもバチは当たるまい。
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