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木崎が用意したのは高級ホテルの洋定食そのものだった。スクランブルエッグにソーセージ、レタス中心のサラダ、ヨーグルト、オレンジ、そしてトーストとコーヒー。リュウにはロールパンとジュース。
「ところで、今何時」
髪を乾かして遅れてテーブルについた聖子が時計を見ると、なんとまだ午前8時半にもなっていない。
エアコンに加えて、リビングスペースとの境にはストーブが冬の朝の音を立てている。
「リュウが我々を起こしたのが7時頃だったようだな」
「ごめんなさい」
口のまわりをふわふわのスクランブルエッグまみれにしたリュウが、スプーン片手に申しわけなさそうな小声で言った。
「いいんだ、あれは俺が悪いんだから、リュウは謝らなくていい。いいか、今日のことで、ごめんなさい、はもうナシだからな。俺がリュウに、ごめんなさい、だ」
リュウに向かって小さく頭をさげ、口元を濡れタオルで拭ってやる木崎の眼差しは、当たり前だが、店やベッドのなかでのものとはまったく違う、底抜けに優しい父親のもので、かたわらで見ている聖子がどこかむず痒く、照れくさくなるほどだった。見ちゃおれん、と思う一方で、ずっと見ていたい気もした。
聖子もコーヒーをひと口飲み、フォークを手に取った。
この部屋のダイニングテーブルは、とにかくでかい。スペースに余裕があるからいいようなものの、ディスプレイ台と呼んだほうが適切なサイズだ。どこか知り合いの店じまいしたブティックからもらい受けてきたものではないかと、聖子は思っている。白木の薄い天板に、黒の細いアイアンの脚。ただし天板は変色して傷だらけ。長方形の長い一辺を、キッチン部分を区切るカウンターに密着させていても、まだ5、6人は座れそうだ。でもテーブルの半分はいつも領収書やら新聞の切り抜きやらの仮置き場と化している。
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