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クッションふたつ重ねのダイニングチェアに座っているリュウの両脇に手を入れて、木崎が持ちあげようとしたその時、息子が全身をよじって父親を拒否した。
「やだ。やーだ」
「どうした、眠いんだろ」
「ヨギちゃん……」
「え?」
もう一度、ヨギちゃん、とつぶやくと、自分で椅子から降りようともがく。木崎の手を借りて床に立ったリュウが聖子の腕をつかんだ。
「ああ……、わたしと寝るの?」
「ヨギちゃん……」と、テーブルの上の聖子の手を引いた。
「おい、ヨギちゃんはまだ朝ごはんを食べてるところなんだから、だめだ。我慢しろ。リュウはもうひとりでも寝られるじゃないか。もうすぐ5歳だろ」
「ああ、いいよ。わかった。一緒に寝よう」
泣きそうなリュウの顔を見て、聖子も立ちあがった。
木崎を盗み見ると、悲しいような困ったような、それでいて少し嬉しそうな、なんともいえない複雑な表情をしていた。
そんなことはおかまいなしに、リュウは聖子の手を握って小部屋へと、本当に眠そうな足取りでよたよたと歩いていく。リュウの手は小さく、あたたかくてつるつるで、つないでいるだけで生命エネルギーらしきものがこちらの心と体に流れ込んでくるような感覚があった。
小部屋のドアを開けた途端、木崎があわてて追いかけてきた。
部屋のなかはフロアの雑多なものを壁際に寄せて、中央に薄いマットレスと布団が敷かれている。
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