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「あのふたり、どっちも実家とはあんまり仲良くないんだ。去年の年末年始はばらばらだったから、今年はふたりでのんびりしたいんだって」
「ふうん……。あ、ヨギちゃん、あんまり飲みすぎるなよ」
「飲みすぎるなよ、だってえ」と竜に頬擦りをした。「わたしのパパじゃないのにねえ」
これまでで最高の面白くなさそうな顔に送り出された。
啓子の家では、すき焼きの具を何にするかで、関東出身の西澤と関西出身の啓子のあいだですでにひと悶着あったらしい。料理は俺の担当だからという西澤の強硬な姿勢で、啓子は割り下を使うことにはしぶしぶ妥協したらしいが、麩を入れることだけは譲らなかったようだ。
「麩だぞ、麩。こんな味のないもの」と西澤が言えば、「そこがええんどすう。お味がしゅんで、よろしおすう」と啓子が返す。
「わざとらしく京都弁を使うな。俺の黒歴史を弄ぶんじゃない」
西澤は半ば本気で怒っていた。
こいつも10年近く逃げつづけたもんな、と聖子は西澤を盗み見た。前妻との本格的別居になったあとも軽く6、7年も放置し、結局最後は大あわて。それだけ啓子が大切な人になったということにもなるのだろうが、人間誰しも逃げ果せるものなら、それに越したことはない。
何から逃げるのかは人それぞれだが、聖子は竜のことで、木崎を『逃げる』と追いつめたことを深く反省しはじめていた。目の前の問題ではなく、竜の親権はもう4年前の離婚の際に決められていたことだ。どうしようもない、という木崎の言葉は正しい。それを外野からぎゃあぎゃあ言われて鬱陶しかっただろうと、聖子は密かに深く落ち込んだ。
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