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「ヨギちゃん、最近、付き合い悪いもんなあ」と、啓子がくたっと体をくねらせて言う。
テーブルにはすでにビールの空き缶が3本、立っていた。西澤はほとんど飲まないから、これはほぼ啓子と聖子のふたりで空けたことになる。昼飲みはアルコールがまわるのが早い。
「あー、そうねえ。ちょっとプライベート・ライフが、まあ、充実している、とは言えないけど、ばたばたしてるってとこなんだよなあ。落ち着いたら、またゆっくり話してあげる」
「はーい、待ってまーす。お麩、食べよ、お麩」と、相変わらずつかみどころがない。
こういう友だちは貴重だと、聖子は思う。過剰につき合いを強要することはないが、必要な時にはそばにいてじっと話を聞いてくれる。
そのうち竜と木崎のことを啓子に語る時もくるだろう。でもその時、『実は、こんなことがあってね』と過去形でしゃべることになるのかと想像すると、そんなのはずっと先でいいと思えた。
満腹のほろ酔いで木崎の部屋へ戻ってみると、テーブルの上のメモが迎えてくれた。
『神戸牛のすき焼きとビールで、もう晩メシは入らないだろうから、お茶漬けの材料を置いておく。自分で作れ。雑炊でもと思ったけど、悪い、時間がない。竜にはシチュー。よろしく』
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