16

3/6
前へ
/205ページ
次へ
「ヨギちゃん、最近、付き合い悪いもんなあ」と、啓子がくたっと体をくねらせて言う。  テーブルにはすでにビールの空き缶が3本、立っていた。西澤はほとんど飲まないから、これはほぼ啓子と聖子のふたりで空けたことになる。昼飲みはアルコールがまわるのが早い。 「あー、そうねえ。ちょっとプライベート・ライフが、まあ、充実している、とは言えないけど、ばたばたしてるってとこなんだよなあ。落ち着いたら、またゆっくり話してあげる」 「はーい、待ってまーす。お麩、食べよ、お麩」と、相変わらずつかみどころがない。  こういう友だちは貴重だと、聖子は思う。過剰につき合いを強要することはないが、必要な時にはそばにいてじっと話を聞いてくれる。  そのうち竜と木崎のことを啓子に語る時もくるだろう。でもその時、『実は、こんなことがあってね』と過去形でしゃべることになるのかと想像すると、そんなのはずっと先でいいと思えた。  満腹のほろ酔いで木崎の部屋へ戻ってみると、テーブルの上のメモが迎えてくれた。 『神戸牛のすき焼きとビールで、もう晩メシは入らないだろうから、お茶漬けの材料を置いておく。自分で作れ。雑炊でもと思ったけど、悪い、時間がない。竜にはシチュー。よろしく』
/205ページ

最初のコメントを投稿しよう!

179人が本棚に入れています
本棚に追加