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木崎の部屋で夕食を摂ったあと、裏倉庫でほんの1分ほど話をした。
「竜、ごめんなあ、店が忙しくて。でも、明日からはずっと一緒だからな」
父親が息子を抱きあげ、お互い顔を見合わせて笑い合う姿は、いつ見ても心が和み、知らずのうちにこちらの目も細くなる。木崎と竜のこの光景を、わたしはあと何回眺めることができるのだろうと、やはり感傷的な想いが胸のなかを旋回した。
年が明けて1月1日の午前11時半に、木崎の部屋のインターホンを5回ほど連打してから自分の鍵を使った。
短い廊下を抜けて部屋へ入ると、木崎がベッドの下に落ちていた。
「ほら、竜、パパが臭いかどうか、確認。行っといで」と、背中を叩くと、素直に木崎のもとへ駆け寄り、胸元の匂いを嗅ぐ。
「もう、臭い臭い、言うなよお。俺は汚物か。あ、ヨギちゃん、ちょっとだけ、俺がシャワー浴びてるあいだだけ、ここにいて。竜、見ててよ」
「はいはい」
「はい、は1回」と言いながら浴室へ向かう。
竜は自分の荷物からノートを取りだしてダイニングテーブルに広げ、早速、勉強体勢に入る。何を書いているのかと盗み見てみれば『ぱぱくさい』で、「これさ、パパのシャワーが終わったら、絶対、見せてあげてよ」と約束させた。
ものの10分ほどでバスルームから出てきた木崎が、聖子の顔を見て満面の笑みになり、「あ、そうだ、ヨギちゃーん、明けましておめでとう」と抱きついてきた。
竜の荷物を小部屋へ持っていこうとしていた聖子は、キスしそうな木崎の勢いを両手で止めた。
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