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「ちょ……、どうしたの」
「ええ、いいじゃないかあ、俺、ヨギちゃん、好きだからあ」
「あんた、まだ酔っぱらってる?」
あるいは自暴自棄になっている、と心で問いかけた。
「さすがにもう醒めてるよ。昨日、あ、今日か、12時半には追い出したぞ、客。うちの店、規則では12時には閉めないといけないんだから。そのあと一応、掃除して、市川と一杯飲んで、そんで、爆睡」
もう告白してしまったから、我慢する必要もないということか。聖子は呆れればいいのか怒ればいいのか、それとも泣けばいいのか、戸惑うしかなかった。
本当に泣きそうになっていたのは竜だった。
玄関で、お年玉のポチ袋を渡して、じゃあね、と言っても、むすっとした顔のままだ。
「ヨギちゃん、それはいらないよ。もう充分……」
いいの、と立ちあがって木崎の顔を見た。「屋台で好きなもの食べさせてあげて、初詣でさ。それくらいしか入ってないから」
木崎は寂しそうに笑い、左手は竜とつないだまま、右手で聖子を引き寄せて優しく、長めのキスをした。
「どういう心境の変化」とささやくと、「抑圧からの解放」とささやきが返ってきた。
最後に竜をきつく抱きしめた。
「ヨギちゃん……」
「ん、なに」
「帰ってくる?」
「え、当たり前じゃん。わたしの家はここにあるんだから。だから、ぜーったいに帰ってくる。2回か3回寝たら、帰ってくる、ね。いってきます」と、キャリーバッグに手をかけた。
竜の笑顔は見られなかった。
木崎の、いってらっしゃい、の声に送られてドアを開けた。
閉まりかけの扉の隙間から見た竜は、木崎のスウェットパンツに顔を埋めていた。
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