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 ビールと笹かまぼこにワサビ醤油で聞いたところによると、元日の夜、お節料理など準備する余裕のなかった木崎は、聖子が実家へ帰ってしまって寂しそうにしている竜に、夜はなんでも好きなものを作ってやると言ったそうだ。もちろん材料のないものもあるから、できるものはなんでも、という意味だ。竜はハンバーグと応えた。そこで木崎は、正月を3人で迎えるつもりだった頃に注文済みだった焼肉用の高級国産牛肉を手ずからミンチにして、渾身のハンバーグを作った。グレイビーソースに温野菜まで添えて『どこのレストランのものにも遜色ない』ハンバーグと自負できるものだった。 「すんごい喜んでさあ、うまいうまいって、ばくばく食って……。半分くらい食べたかなあ、そこで急に静かになったから、どうしたのかと思って見たら、あいつ、泣いてんの。ぎゃあぎゃあ泣くんじゃなくて、しくしく、静かに泣いてんの。あんまり急いで食べたから喉が詰まったか腹が痛くなったのかと思って、どうしたって訊いたら、ヨギちゃんが可哀想だって。こんなおいしいハンバーグが食べられなくて、可哀想だって。ヨギちゃん、いっつもパパのご飯、おいしいねって言うから、これも食べさせてあげたいって。そこから先、食べないんだよ。ヨギちゃんのために取っておく、って。だから、ヨギちゃんには俺がまた同じの作ってやるし、これはヨギちゃんが帰ってくる頃にはダメになっちゃうから、今日は竜が全部食べろ、って……。それから泣きながら全部食べたんだけどさ……。お前、ヨギちゃんのことが大好きなんだなって言ったら、こっくん、ってしてさ、なんか俺、すごい残酷なことしてる気がして……。それでさ、俺、禁断の質問を、竜にすることにした」
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