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「そりゃ、まあ……、夜あんたが仕事してるあいだの面倒は……」 「そういう意味じゃなくて……。いや、もちろん、それもすごくありがたかったんだけど、それだけじゃない。もし、ヨギちゃんがいなくて、俺ひとりだったら、俺、竜をウザいと思ったかもしれない……。店も忙しい時期だし、早く有佳んとこに帰れって思ったかもしれない。いや、たぶんそう思ったと思う。子どもなんて鬱陶しいだけだって。でもヨギちゃんがいて、ヨギちゃんが俺を見てくれていたから、俺は竜と向き合えた。竜を必要以上に傷つけずにすんだ。ヨギちゃんに見られているという意識があったから、俺は竜のことを好きでいつづけることができた。そうじゃなかったら、竜は……、竜は、あまりにも可哀想だ。全部、何もかも、今ならわかる」  木崎はぼんやりとテーブルの上の竜の手紙のあたりに目を遣っていた。「だから、俺さ……」と言ったまま、しばらく次の言葉が出ない。 「なに……」 「俺……、竜が有佳のところに帰って、そんで、ヨギちゃんもいなくなったら、そのあと自分がどうなるのかの想像がつきすぎて、怖くなった……。うん、で、まあ、これが理由の、竜の部」 「竜の部?」 「そう。次が仕事の部」 「まだあんの?」 「もうちょっとだから我慢して聞いて」 「はいはい」 「はい、は1回」  木崎が聖子を見て笑った。優しい、いい笑顔だと、しばらく見惚れてしまった。そうだった、わたしはこの人の外見をまず気に入ったんだと、聖子はずいぶん昔のことのように思い出した。「ヨギちゃん、やっぱ、鋭いな」 「何が」 「このビル、かなり古いだろ。築35年だって」 「へえ、結構なお歳。わたしよりかは若いけど」 「建て替えの計画がある。今のオーナーが高齢になってきて、息子に権利を譲りたいんだって。まあ、相続税対策もあるらしくて、早めに名義変更して、融資を受けて建て替えるんだって。来年、あ、今年か、早ければ夏頃に解体。ここは市の規制があるから、最高でも4階建にしかできない。で、オーナーから相談が来た。まわりくどい言い方をしてたけど、言いたいことは、新しくなったらバーは入れたくない、もっと健全な店を、目立つ1階に入れたい。花屋とか美容院とか、飲食だったらレストランかカフェ」
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