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「笑った……?」
「そう……。それはあなたがそうしたくて選ぶんでしょ、って。僕がどうするとかこうするとかって話じゃないよね、って。まあ、母さんはなんか言うだろうけど、あなたは自分のやりたいようにするでしょ、って」
「ヨギちゃんが、どうやってヨギちゃんになったかが、ほんの少しだけわかるような気がする」
「それでさ、あなたは相変わらず要領がいい、って言われた」
「なんで……」
「オムツ替えたりミルク飲ませたり夜泣きで起こされたり、そういう子育てでいちばん苦労する部分を自分ではやらずに、しかも出産もせずに母親になろうっていうんだから、って」
木崎が、ははっ、と短く声をあげて笑った。
「これからも大変だぞ、きっと。反抗期とか、あるんだろうな……」
木崎が見えぬ未来へ向けていた目を、すっと聖子に当てた。「以上が俺の『籍を入れてください』の理由です。納得してもらえましたか。ヨギちゃんの返事を聞かせてください」
「もともとはわたしが言いだしたこと」
ビールが残り少なくなった小ぶりのグラスを両手で持ち、キッチンのほうへ顔を向け、でも何も見ていない目で聖子が応えた。
「うん……」
「でも、ひとつ、条件をつけさせてください」
「はい……」
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