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 木崎が、くすっ、と笑った息が首筋を走る。「それとね」 「うん」 「あんたがヒモ状態になったら、すぐに追ん出す。竜はわたしが引き取る」  木崎の腕に力が入った。 「そんなことさせない。いやだ。そんなの……、絶対にいやだ……。だからさ……」 「うん……?」 「だから、今日は泊まっていこ……、ね。明日の朝、竜が起きてきたら、きっと喜ぶから。ヨギちゃんだあ、って、すごい喜ぶ」 「あのさ……」  聖子が体を離し、木崎の顔を見上げた。 「うん……」 「竜をダシに使うの、やめろ」  はい、と真面目くさった顔で言ったあと、木崎はふわりと表情を崩し、優しく長いキスをした。  翌朝、聖子と木崎はほぼ同時に、うっ、げっ、と呻いて目覚めた。  竜がベッドによじのぼって、布団の上から腹のあたりにダイブしたからだ。 「ヨギちゃんだあ」とにこにこ笑う竜を布団のなかに入れ、大人ふたりのあいだに挟んだその直後、木崎が「おい、竜、お前、臭くないか」と、掛けたばかりの布団を剥がした。 「うん、おねしょした」  うわ、と跳ね起きたふたりが大騒ぎする様子がおかしいのか、本人は至って楽しそうに笑っている。  もう全裸で寝るには寒すぎて、ちゃんと服を着けていてよかったと、聖子は心から安堵した。  シーツとパジャマを洗濯機に放り込んで布団を干してと、応急処置を施したあと、木崎が膝をつき、竜の腕をつかんだ。 「竜、おねしょしたらなんて言うんだ」  正面からきつく訊いた。  竜は口をとがらせて、知らない、などとうそぶいている。 「出ちゃったものはしかたない。でもな、洗濯したり布団干したりするのは誰だ。その人に、なんて言うんだ」  しばらくうつむいてもじもじしていた竜が、何度も促されて、やがて「ごめんなさい。ありがとう」と小さく言った。  木崎は父親の顔でにっこり笑い、竜の頭を撫でた。 「よし、次はもっとしっかり言おうな。あ、おねしょしていいってことじゃないぞ」  約1ヶ月前との大きな違いに、聖子の胸に深い安心感が広がった。
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