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バスルームの引き戸を開け、シャワーを全開にした。
「お湯が出てくるまで、ちょっと待とうね。じゃ、上も脱ごう。ちょっと寒いけどね」
リュウはもぞもぞとトレーナーの袖から腕を抜きはじめた。これは寝巻き代わりの着古したものなのか、それとも昨夜は着替えずに寝てしまったのか。聖子も脱衣を手伝いながら、パジャマの確認、と頭のなかにメモった。
洗面台の横に立てかけられたワイヤーネットのS字フックに、いろんなものがぶらさがっている。そのなかで最大の存在感を示しているドライヤーの陰に隠れてかかっている、趣味の悪いピンクのシュシュを取った。白いレースのひらひらとまがいもののパールまでついた極悪センスの代物だ。おそらく、というより確実に木崎が連れ込んだどこぞの誰ぞの置き土産。忘れていったのではない。置いていったのだと聖子は確信している。シュシュなど、まだまだかわいいものだ。
髪をまとめ、木崎のスウェットの袖とパンツの裾を高く巻きあげて、準備を整えた。子どもをお風呂で洗うなんてしたことはないが、どうにかなるだろう。
「さあ、いくぞー」と、洗い場でシャワーヘッドを手にして、リュウを招き入れた。
寒そうに肩をすくめて、ちまちまと小股で入ってくる丸裸の男児を見て、聖子の心が叫び声をあげた。かわいい。なんだこれ。全身かわいいオーラ発散中じゃないか。わたしにもこんな感情があったんだ。
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