あしあと、あしあと。

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あしあと、あしあと。

 同僚の璃菜(りな)と一緒に居酒屋で飲んで、そのまま機嫌よく駅に向かって歩いていたところまでは覚えている。もうすぐ駅に着くなあ、と思っていたのも、いい気持ちになって二人で歌いながらくだらない話をしていたことも。  それなのに、気づけば朝香(あさか)は璃菜を含めた数人の大人達と共に、この真っ白な部屋に閉じ込められている状態である。皆、仕事の帰りであったのかスーツや作業着の姿だった。全員、どこかで見た覚えのある顔である。朝香はまだ鈍く痛む頭をさすりながら、ゆっくりと記憶を辿ろうとした。朝香ちゃん、と璃菜が泣きそうな顔で声をかけてくる。 「朝香ちゃん。……どういうこと?私達、なんでここにいるの?」  真っ白な丸い部屋には、真ん中に丸い台座のようなものがあるだけで何もない。壁には均等に五つの茶色いドアがあり、全てどこかに繋がっているようだった。五つのドアにはそれぞれネームプレートが掲げられており、その中には“森田朝香”と“佐藤璃菜”の名前もある。そして、あとの三つは。 「みんな、見覚えがある顔だし、名前だし……全員、高校の時のクラスの仲良しグループ、だよね?」  そうなのだ。  全員面影がある。ネームプレートを見てすぐに思い出した。  作業着姿の屈強な大男が、小俣健之助(こまたけんのすけ)。  スーツ姿でメガネをかけた青年が、大木駆(おおきかける)。  ツンツンした金髪で、いかにもロッカー風の男が、鈴木春義(すずきはるよし)。  高校時代同じクラスで、よくツルんでいた仲良し五人組が自分達だった。最近はあまり逢っていなかったが、年賀状のやり取りなどは地道に続けていたし、一部のメンバーとはわりと最近メールやLANEで連絡を取ったばかりである。何故、今になってこのメンバーが集められているのだろう。男三人もわけがわからない様子で、きょろきょろと辺りを見回している状態だ。 「あれ?俺ら、いつの間に店を出たんだ?駆、覚えてるか?」  健之助の顔は僅かに紅潮している。少しばかり酒の臭いもするようだ。どうやら、彼もお酒を飲んでいたところであったらしい。 「悪いが、俺は何も。お前があんまり飲みすぎるから、全力で春義と止めてた記憶しかない。いくら久しぶりに会ったからって、テンション上がりすぎて危なかったからな。なあ春義?」 「おうよ。いい飲みっぷりだったけど、アル中はマジ危ないし。この間バンドの仲間もそれで救急車呼んだしな!全力で止めてやったぜ!」 「そ、そうだっけか……」  冷静な様子の駆、チャラ男全開の春義。春義はややチャラ男ぶりに拍車がかかっている気がしないでもないが、概ね高校生時代の印象通りと言って良かった。ちょっと待って、と声をかける朝香。
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