あしあと、あしあと。

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 ちょっとまって、と朝香は混乱する。ういいいいん、という音とともに、台座の上に五つの粘土の塊とネームプレートが現れた。ここに足跡をつけろ、ということらしい。  だが、足跡が小さかった人が勝利とはどういうことだろう。ここにいる五人は性別も体格もバラバラだ。普通に考えるなら、足のサイズが小さい順に二人が勝利することにしかならないではないか。一番小さいのは、小柄な璃菜だろう。時点は朝香か、あるいは男性ながら細身な体格である駆といったところであろうが。 「武器……」  はっとして、朝香は呟いた。部屋の中に、あらゆる武器と凶器が用意されているとアナウンスは言った。何故そんなものが必要なのか。 「まさか……“足を小さくする”ために、そういうものを使えってこと!?」 「!!」  全員、同じことに思い至ったはずだ。ぎょっとして顔を上げる璃菜、健之助、駆、春義。さっきまでへらへら笑っていた春義さえも、“おいおい、冗談きちーって”と引きつった顔になっている。  足を小さくする。  例えばそう――自分の全ての指を切り落とす、なんてことをすれば。足のサイズを大幅に縮小することは可能なのだろう。想像するだけでぞっとする話だが。 「じょ、じょ、冗談じゃねえよ!?なんで俺らがこんなことしなくちゃなんねーんだ!?」  大柄ながら、非常に気の小さい健之助が言う。璃菜は既に、そんなのやだぁ、と言いながら泣き出していた。泣いている場合じゃないでしょ、と朝香は思う。思うが、口には出せなかった。まだ現実を受け入れるには程遠い状況であったからだ。  すぐに言葉が出る、涙が出る人間は現実を理解できている。朝香はまだ、悪い夢を見ているとしか思えない。思いたくないのだ。 『三日後、どなたも足跡をつけなければ、全員が生き残る価値なしとみなされ処刑されマス。どうか、賢明なご判断をなさってくだサイ。ちなみに、この部屋の中に出口はありまセン。生き残るには、三日後に他の方々よりも小さな足跡をつけるしかないのデス』  こちらの声は聞こえているはずだった。そうでなければ、先ほどの相槌はないのだから。 『それでは、三日後に。皆様のご健闘を、お祈りしておりマス』  しかし、無情にもアナウンスの声はそこで途切れたのである。これ以上、自分達と話すことなど何もないと言わんばかりに。
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