あしあと、あしあと。

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 璃菜が、相変わらずかっこいい、と頬を染めて言った。そういえばこの子、高校時代は駆に片思いをしていたんだっけな、と思い出す。残念ながらその時駆にはクラスメートの彼女である雪音(ゆきね)がいたため、告白することさえも叶わずに恋は終わってしまったようだったが。朝香もひそかに駆のことを“いいな”と思っていたので、気持ちはわからなくはないのだけれど。  確かに、駆の言うとおりなのだろう。  武器を揃えてあること。足跡をつける、なんてシステムを作ってあること。しかも、三日間もの猶予を設けてあること。全て、自分達が争うように仕向けているとしか思えない。誘拐犯はどうやらよほど自分達五人を恨んでいる人間ということらしい。だが、じゃあその相手とは誰?と呼ばれるとちっとも思い出せないというのが本当のところだった。なんせ、もう十年以上も前の話なのだ。多少喧嘩した相手や揉めた相手はいただろうが、そんなことまで細かくいちいち覚えているはずもないのである。 「駆が言うことはわかるぜ?俺だって、高校時代の友達と殺し合いなんかしたくねぇよ。足を切るのだって嫌だし、みんなを犠牲にして生き残るのだってすげー嫌だ」  けどよお、と。春義が困惑した表情で言う。 「あるのかよ、この状況で。俺達五人、全員が生き残る方法なんか。ルール通りにすれば三人は確実に死ぬし、足跡つけなけりゃ五人全員死ぬんだぜ?」  その通りだった。なんとか誘拐犯を捕まえるか、出口を見つけることでもできない限り。自分達は誘拐犯の言うとおりにしない限り、生き残る道はないのである。もちろん、言うとおりにしたって本当に解放してくれる保証はどこにもないとしても、だ。  ああああ、と健之助が頭を抱えて蹲った。このままでは、確実に一番足が大きな自分はどう足掻いても生き残ることができないと気づいているからだろう。本当に、図体ばかり大きな木偶の坊め、と朝香は罵りたくなる。泣きたいのはこっちだ。男のくせに、不安がっている女子に慰めの言葉もなく、駆のように建設的な考えも言えないなんて情けないとは思わないのか。  こんな調子のくせに、昔は朝香のことが好きだとか抜かしてきていた男である(ちなみに、春義は璃菜のことを可愛い可愛いと口説いていた記憶しかない。童顔小柄な女の子がタイプだったのだろう)。そんなみっともない男に、一体なぜ朝香が惚れると思っていたのか、理解に苦しむところだ。 「まだ、タイムリミットまで時間はある」  駆は、そう言って話を締めくくった。 「とりあえず、みんな疲れているだろうから今日は一度部屋で休んだ方がいい。時計を見る限り、今は深夜の二時だ。朝になったら広間に集合して、ご飯を食べたり話し合ったりしよう。俺はなんとしてでも全員で、生き残る方法を探したい」
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