あしあと、あしあと。

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 ***  なんとなく、思っていたのだ。  殺し合いも望まない、みんなで生き残る方法を探したい。この状況でそれが言える駆を信じたかったし、彼がいればなんとかこの場所から五人で脱出することもできるのではないかと。まだ時間は三日、残っている。その間に、脱出口を見つけることも不可能ではないかもしれない、と。  それなのに。 「あんたでしょ!!」  何故今、朝香は璃菜に包丁で襲われているのだろう。 「あんたが!!駆を殺したんでしょ、あんた以外にないわ!!」 「ま、待って璃菜!待ってよお!!」  顔を庇うべく突き出した右手の掌に、ざっくりとした熱が走った。璃菜の振り回した包丁で切り裂かれたのだ。悲鳴を上げてのたうつ朝香。ああどうして、と思う。何故、男二人は助けてくれないのだろう。すぐそこに立っているのに、健之助も春義も目をそらして自分を見捨てようとしているのだろう。  朝目覚めた時――駆の部屋は血まみれになっていて。彼はベッドの上で、冷たくなっていたのである。恐らく最初は彼の足を切ろうとしたのだろう。足には細かな傷がいくつかついていた。しかし、それがうまくできなかったようで、結果ナイフの一本が駆の首に突き刺さった状態で発見されている。足を切るより、殺す方が早いと犯人は踏んだらしい。そのナイフは、駆の部屋にあったものだった。  誰かが駆を殺して、生き残ろうとしたのは明白である。そしてその場合、足のサイズがほぼ同じであった朝香が疑わしいと璃菜は踏んだのだろう。駆がいなくなれば、自分が確実に生き残ることができるはずだから、と。 「違う!違うったら!私は、駆を殺してなんかないんだから!」  庇うたび、包丁が掌に食い込み、ついに左手のひとさし指が切り飛ばされて吹き飛んでいった。 「ぎゃああああ!痛い、痛い!やめて璃菜、やめて!!」  痛みに泣き叫びながら、朝香は自分の部屋に逃げ込む。誰も助けてくれない。このままでは殺される。どうして自分が。何も悪いことなどしていない自分が何故、こんなところで死ななくてはいけないのか。  璃菜のことは、ずっと親友だと思っていたのに。  何故信じてくれないのだろう。自分は本当に、駆を殺してなんかいないのに。 ――やらなきゃ、やられる! 「ああああああああああああ!」  とっさに右手で掴んだのは、草刈鎌だった。錯乱状態で包丁を振り回す璃菜の顔面に向けて、思いきり振り下ろす。 「ひぎっ」  刃は、彼女の鼻のあたりに突き刺さった。動きが止まる。朝香は叫びながら刃を引き抜くと、何度も何度も彼女の顔をめがけて振り下ろしたのだった。 「死ね、死ね、死ね!わ、私の事を信じないあんたなんか、死んじゃえばいいっ!!」  彼女の顔が耕され、潰され、完全なミンチになるまで――朝香は喚きながらざくざくと鎌を動かし続けたのである。  この時、必死だった朝香は全く気付いていなかった。璃菜が死ねば、残るは三人。一番足が小さい人、になるのは自分であるということに。  その自分を。仲間を惨殺した自分を。あとの男二人がほっておくはずがない、ということに。
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