あしあと、あしあと。

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 *** 「ありがとう」  煌々と光が灯る、モニタールーム。全身包帯だらけの人物は、ぽつりと呟いたのだった。 「ありがとう。……あなたのおかげで、望みが果たせる」  白い広間が血まみれに染まる。璃菜を殺した朝香が、健之助と春義によって広間に引きずり出されていくのを、その人物――日高雪音(ひだかゆきね)は口元に笑みを浮かべて見つめていた。  揃いも揃って、馬鹿ばかりではないか。  自分はアナウンスで、“この部屋には出口はない”と言ったのだ。しかし、五人もの人間を拉致して広間に連れ込むためには、どこかしらから搬入口が必要なのは間違いないことである。――出口は、五つの部屋のどれかに繋がっている。その考えに至れば当然、五人の中に犯人と繋がっている裏切り者がいることに気づくことも容易であったはずだというのに。 「本当にありがとうね……駆」  彼らの脆い絆を断ち切るのは、簡単なことだった。  仲間に殺されたとしか思えない状況で、一人が死ねばいいのだ。駆はそれをわかった上で、他殺に見せかけて自殺したのである。出口が隠されている部屋に誰も踏込たくなくなるよう、わざと部屋中に己の血と赤い絵の具をぶちまけた上で。  昨日まで、みんなで脱出しようと誰より強い言っていた人間が、突然自殺などするはずがない。そして死んだ人間が、裏切り者であったなど誰も思わない。駆は本当に良い仕事をしてくれた。全ては――自分達の復讐をする、そのためだけに。 ――愛してるわ、駆。……大丈夫。こいつらを苦しめに苦しめたら……ちゃんと私も後を追うから。  クズな四人の“仲良しグループ”達は、もう覚えてもいなかったのだろう。  高校時代。駆の彼女であった自分に嫉妬して、朝香と璃菜が最悪の手段を行使したこと。その朝香と璃菜に惚れていた健之助と春義が協力したこと。  事故に見せかけて生きたまま髪の毛と服に火をつけられた雪音は、見るも無残な姿になった。駆がいなければ、生きていくことも諦めていただろう。  二人で誓い合ったのだ。友達の顔をして平然と人を傷つける、悪魔のような連中に必ず復讐してやると。何年もかけて虎視眈々とその準備をしてきたのである。 『ひぎいいいい!いだい、いだいいだいいだいいいいい!』  逃げようとして腹を切り裂かれた朝香が、内臓を引きずりながら必死で這いずっていくのが見える。この様子だと、生き残るのは春義と健之助の二人で決まりだろう。三日を待たず、足跡を残せる人間は彼ら二人しか残らないのだから。  だが、彼らも無事で生き残らせるつもりはない。  そしてこのゲームが、最終ゲームだとも自分は言っていない。 ――次は。少しでも籠の中身を重くできた人が勝ちのゲーム、とかどうかしら。籠の中身は自分は相手の肉片……ってね。楽しそうでしょ?  悪魔を殺すためならば、いくらでも悪魔に堕ちてやる。  既に愛しい人の命を捧げた自分に、後戻りなどできるはずもないのだから。
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