クルトはその背を押すと決めた

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 ***  足跡は、対象が起きていても眠っていても関係なくそこに存在する。  フローラが一人暮らしするアパートにて。こっそり酒に睡眠薬を飲ませて彼女を眠らせた夕方。その体をソファーに寝かせて、クルトはそっとチャンスを待っていた。  あと約二日で、彼女は死神に連れて行かれる。これが最後の機会だと思っておくべきだろう。計算通りなら、この時間帯に足跡は前進するはずだ。 「……フローラ」  ぐっすり眠っているフローラに、クルトはそっと声をかける。ちょっと強めの薬を飲ませたから、多少大きな音がしても起きる心配はないだろう。  彼女を不安がらせたくなかった。泣かせたくなかった。これからやろうとしていることを知ったらきっと彼女は止めるだろうから。 「夢を見るのが罪だなんて、そんなことはないだろ。……お前は前に進むべきだよ、ヘッダの分まで。お前みたいなやつこそ、そうするべきなんだよ」  そのためならば自分は何だってする。クルトは、手に持った包丁を振り上げた。  あと十秒、九、八、七、六、五、四、三、二、一――。 「だから死ぬのは、お前だ」  足跡が進む、その瞬間。クルトはその足跡の真上に向けて、思いきり包丁を振り下ろしたのである。  ギアアアアア!という、凄まじい悲鳴が響き渡った。見えない何かが、びしゃびしゃと飛び散るのを感じながら。クルトはひたすら、包丁を振り下ろし続けたのである。
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