不協近所

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子供たちが上手くいかないのに親たちが上手くいくはずがない。 何となく重苦しい空気が漂う中、黙々と作業を進める三人。 火なんて簡単につくと思っていたが、道具なしで火を起こすのは難しかった。  「どうして私まで・・・」 素乃子の母は作業の進展が悪いためか、そう零した。 それでも嫌そうな顔をしているが、三人の輪の中にはちゃんと入っている。 「まぁまぁ、そんなことを言わずに! 折角同じチームですし協力しましょうよ。 ねぇ?」 そんな空気でもまるで場違いな程に明るく言えるのが近哉の母親だ。  額に汗を垂らしながら、まるで宝物でも見つけたかのような笑顔をしているのを見ると、素乃子の母は少々イラつきを抑えずにはいられない。  それが分かったのか恵意の母が小気味よく手を叩いた。 「そうですよ。 お宅とも仲よくしたいですし」 「・・・」 近母と恵母にそう言われても嫌そうな顔を浮かべている。 この状況で一番遣りにくさを感じていたのは意外にも恵意の母親だ。 カラ元気を絞り出すように言う。 「そ、そう言えば、近哉くんは最近どう? 嘘をつく癖は直ったのかしら?」 「あぁ、それがまだ全然。 いつになったら嘘を言わなくなるのか・・・。 何か解決策はないですかねぇ?」 無邪気に首を捻り、素乃子の母親に顔を向ける。 「水島さんはどうやってお子さんに言い聞かせているんですか?」 「・・・」 相変わらず素乃子の母親は無反応だ。 しかし、それは特段何も思わず、恵意の母親はこういうところを見て近哉の母親に奇異な目を向けることがある。 確かに隣に住んでいて仲がいい。 昔からの友達だ。 しかし、時々おかしいなと思うこともあるのだ。 「水島さんはあれ以来、素乃子ちゃんに対する態度は変わりましたか?」 「・・・」 「朝の怒鳴り声は聞こえなくなりましたけど、やっぱり夜になるとまた聞こえて・・・」 言いながら近哉の母親は恵意の母親に視線を向ける。 同意を求めているのだろう。 「わ、私の家までも聞こえてきます。 一体何を怒っているんですか?」 「・・・またその話ですか」 素乃子の母親はうんざりだと言わんばかりに溜め息を漏らす。 だが近哉の母親はそれを気にも留めていない。 「これでも心配しているんですよ? 素乃子ちゃんも素乃子ちゃんのお母さんも。 ねぇ?」 「そ、そうですよ。 自分の子供にはもっと優しく、愛情を持って接した方が・・・」 とにかく今は流れに乗っていた方がいいと恵意の母親は思っていたのだが、素乃子の母親の突然の切り替えしに驚いてしまう。 「私のことより、貴女たち自身のことを考えたらどうですか?」 突然立ち上がっての言葉に心当たりはない。 「・・・どういうことですか?」 「貴女たち、自分の子供をちゃんと見ています?」 近哉の母と恵意の母親は顔を見合わせる。 素乃子の母親は恵意の母親を見て言った。 「特に貴女。 一昨日集まった日、恵意さんがずっと近哉くんのことを蹴っていましたよ」 「えぇ!?」 またしても二人して顔を見合わせる。 ただ先程とは表情が違う。 「気が付かなかったんですか?」 「そんなこと、恵意ちゃんがするわけないじゃないですか!」 恵意の母親はそう言いながらも、近哉と娘が言ったことを思い出していた。 素乃子の母親が近哉と結託しているとは考え難い。 だが、ただ言い返してくるだけで行ったとは思えない。 「見たから言っているんです。 近哉くんも嫌そうな顔をしていたでしょう」 恵意の母親は近哉の母親のことを見る。 近哉の母親は首を横に振った。 素乃子の母親は近哉の母親に問う。 「近哉くん本人に確認はしてみましたか?」 「いえ・・・。 だって近哉は嘘つきだから」 「自分の子供も信じられないんですか?」 「え、だって・・・」 近哉の母親は何も言えなくなっていた。 子供を信じたくないわけではないが、実際に宿題の件で嘘をついていたことは事実である。  しかし、だからといって近哉の言っていることが全て嘘ということにはならない。 ここ数日近哉は自分に話しかけようとして来ていた。 それを拒みに拒んだのは自分。  近哉の母親にしては珍しく自分の行いを反省していた。 近哉の母親の様子を見て、そして素乃子の母親が今度は恵意の母親にハッキリと言った。 「逆にどうして貴女は自分の子供をそんなに過信するのですか?」 「自分の子供だからに決まっているじゃないですか!」 「信じるのと甘くみるのとでは訳が違います」 「甘くなんて見ていません!」 「ま、まぁ二人共、落ち着いて・・・」 ヒートアップしていく二人を近哉の母親は止めようと間に入った。  「私は本当のことを言っただけです」 「こんなに好き勝手に言われて、近藤さんは許せるんですか!?」 「それは・・・」 ただそう話を振られて、近哉の母親は口ごもってしまった。
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