不協近所

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順位はグループごとに発表され、親子連合グループたちはその結果で一喜一憂している。 その中で特に雰囲気の悪いグループが近哉の属するグループである。 それを見てか新伍が慌てた様子でやってきた。 「ビリって、一体何があったのさ!?」 近哉のグループは皆表情が暗く、結果にも過程にも納得いってないようだ。 「あんなに優勝を狙うって意気込んでいたのに、朝よりも最悪な状況になってんじゃん」 ただ近哉はこれでいいと思っていた。 協力できなかったのだから結果も悪くていい。 もし結果だけよければ、もっと微妙な空気になってしまいそうだったからだ。 「俺も詳しい理由は分からないけど、色々とな・・・。 新伍のグループは優勝だって? 流石だな、おめでとう」 「悠長に祝っている場合かよ・・・」 「仕方ないだろ。 俺にだってどうしようもないんだ」 「・・・分かった。 ちょっと母さんに相談してくる」 「え?」 新伍の突然の言葉に驚いているうちに、背中を向けて去っていった。 何やら遠目で話してるのが見え、明らかに新伍の母親の表情が変わる。 まるで“ボスママ”というオーラを隠そうともしていない気配。 そしてそのまま新伍は母親を連れて近哉のグループの前に立った。 「あら、綺麗な奥様方。 そして可愛らしい娘さんたち。 今日はお疲れ様でした」 今日はハイキングだというのに派手な格好をして目立っている。 新伍の母親は相変わらずのようだ。 近哉の母親は笑顔を慌てて作って言う。 「あ、どうも・・・。 そちらもお疲れ様でした」 「ありがとうございます。 そしていつも、新伍がお世話になっております」 近哉の母親も近哉と新伍の仲がいいことを知っている。 恭しく礼をしてきたため近哉の母親も腰を折る。 「それよりも、新伍から聞きましたわよ? 素乃子ちゃんのお母様、ずっと娘さんを叱っていらっしゃるんですって?」 突然の言葉に場が静まり返った。 今はその話で関係が最悪になっているのだ。 それでも言い返させない雰囲気を新伍の母親は放っている。  ただ一人素乃子の母親だけは新伍の母親を睨み付けるよう視線を向けていた。 「娘さんを叱る理由は? 自分の言うことを聞いてくれないから? 貴女は自分の子供を何でも言うことを聞くロボットだとでも思っていらっしゃるの?」 「私は素乃子のためを思って」 「ただ叱るだけでは何の解決にもなりませんわよ? 娘さんもちゃんと自分の意志を持つ人間なの。 娘さんの思いもちゃんと聞いてあげなさい」 「ッ・・・」 新伍の母親は言い負かしたのを見て満足な表情を浮かべた。 今度は素乃子に顔を向ける。 「そして素乃子ちゃん? お母様に従わなくてはならないという鎖を断ち切りなさい。 逆らうことがどんなに怖くても、自分の気持ちを素直に言うこと。 いいわね?」 「・・・でも」 「でもも何もないの。 素乃子ちゃんが変わろうとしない限り周りは何も変わってくれないわ」 素乃子は俯いた。 「そして恵意ちゃんのお母様? 自分の娘を大切に想う気持ちはよく分かります。 だけど何でも自分の子供を信じ、甘やかすのは違いますわ」 「私は別に、甘やかしてなんか!」 「近哉くんは嘘つきではありません。 ずっと近哉くんを近くで見てきた私が保証します。 本物の嘘つきは恵意ちゃんの方よ? 恵意ちゃんのお母様も、少しは理解したのではないかしら?」 「ッ・・・」 「このままでは可愛らしい娘さんが駄目になってしまいますわ。 そこを修正するのが親の役目でしょう?」 恵意の母親は何も言えなくなった。 「そして恵意ちゃん? 貴女は近哉くんのことが好きなのね?」 「ッ!?」「はぁ!?」 それには恵意と近哉が同時に反応し顔を見合わせた。 だが、すぐに二人共顔を背けてしまう。 「だから近哉くんに嫌がらせをする。 合っているでしょう?」 「そ、そんなわけないじゃないですかッ!」 「私と一緒の女ですもの。 乙女心くらい分かりますわ」 もう一度ジロリと恵意が見てきた。 近哉は静かに視線をそらす。 ―――いや、そんな理由は考えていなかったし・・・! 「最初は可愛い悪戯で済むでしょうけど、それが行き過ぎては駄目よ。 もっと自分の気持ちに素直になりなさい。 そしたら恋がもっと楽しくなるから。 ね?」 最後に新伍の母親は近哉の母親に向かって言う。 「そして近哉くんのお母様?」 「わ、私にも何かあるんですか・・・?」 「貴女のいいところは楽観的な性格よね。 でもそれを悪く言うと、空気が読めないということなの」 それを聞いても近哉の母親はポカンとしている。 近哉も分かっていたことだが、自覚はなかったのだろう。 「人の気持ちを汲み取るのは確かに難しい。 だけど少しでも人の気持ちを考えてみて? そしたらいさかいが起こりにくくなるわよ」 「本当ですか!?」 「えぇ。 貴女の楽観さがより周りを明るくする。 これからも素敵なムードメーカーでいらしてね」 今度は近哉と目が合った。 ―――俺も何か言われるのか・・・。 「最後に近哉くん? 貴方には悪いところが何もないようね」 「「「ッ・・・・!?」」」 グループからの視線が集まる。 あれだけ周りが言われておいてそれはないと思ったのだろう。 ただ新伍と近哉が親友なだけにそういう風に伝えていてもおかしくない。  それに基本的には近哉自身は真面目で普通だと思っているのだ。 グループからの視線は痛いが、そう言われれば悪い気がしないのも事実だった。 「新伍の親友でよかったわ。 これからも新伍と仲よくしてね」 「は、はいッ!」 こうして新伍の母親が全てを察していたように丸く収めてしまう。 そこには偏見も含まれていたのかもしれない。  ただこのまま自分たちだけで解決するのは困難な道のりだということを近哉は分かっていた。 だから新伍のやってくれたことは素直に喜べるものだった。  何とも言えないし、この先不安も残るがお互いのことを知れて問題点にも気付けて、結果的には悪くないイベントだったのではないかと近哉は思えた。  そして、ハイキングレースからの帰り道。 黙ったままだった恵意が別れ際に言った。 「べ、別にアンタのことが好きっていうわけじゃないんだからねッ!」                               -END-
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