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近哉もハイキングレースがあることは前々から分かっていた。 だがそれが住んでいる場所でグループを分けられるとは思ってもみなかったのだ。
楽しみにしていたイベントもこうなってしまえば苦行へと変わる。
―――はぁ!?
―――何だよこれ!
心の中で悪態をついているうちにプリントを配り終え、担任の説明が始まっていた。
「中学校二年生恒例のハイキングレース! 今週の金曜日に開催するわよ!」
その後、詳しい説明が行われた。 だがそれも納得できていない近哉の耳からはスルスルと抜けてしまう。
グループ分けは重要で、もちろん近場に同級生がいなければ離れた場所に住むクラスメイトでグループが決められるが、近哉は両隣になるのが必然的。
近所で仲がよければそれでいいし、そうでないならこれを機会に交流を持ってほしいとのことだった。
「先生! グループを替えてください!」
プルプルと肩を震わせていた恵意が机をバンと叩き立ち上がる。 運命の悪戯なのか恵意と素乃子の二人共がクラスメイトなのだ。
このグループ分け自体がクラス単位であるからこそ、一緒になったわけだが。
「どうして? 何か問題でもある?」
「大ありです! 近哉と同じグループなんて嫌です!」
恵意は全員の前でハッキリとそう言った。 だが恵意が近哉に対してこんな態度なのは皆知らない話ではない。 それは担任も同様で苦笑いを浮かべながらも、彼女に諭すように言った。
「だからこそよ。 近所に住んでいて助け合えとは言わないけど、いがみ合う必要はないと思うの」
「近哉と同じグループなら、私は不参加で!」
「知っていると思うけど内申に響くわよ? 推薦を希望するなら成功させないと大変なことになるかもしれないわねぇ」
―――そこまで言わなくても・・・。
―――まぁ俺も、恵意と同じグループだなんて嫌だけどさ。
嫌がられると周囲からの視線も痛くなる。
「どうして今年は近所グループにしたんですか!」
「いつもは出席番号順とか、背の順とかありきたりなグループ分けが多かったからね。 新しい分け方に挑戦してみたくて」
適当な理由だと思ったが、決め方自体に深い意味がないならどれも同じだろう。
他に多くの人間が不満になれば覆るかもしれないが、現状不満に思っているのは恵意と近哉だけとなるとどうしようもない。 素乃子は俯いたまま何も言わないので考えすら分からないのだ。
結局、担任を言い負かすことができず恵意はプルプルと震えながらも大人しく座ることになった。 ホームルームが終わると早速とばかりに恵意がやってくる。
「近哉! ハイキング当日、学校を休んで!」
「はぁ? どうして俺なんだよ」
「原因がアンタしかいないの!」
「そんなに嫌なら恵意が休めばいいだろ」
「私はハイキングに参加したいの! ずっと楽しみに待っていたんだから!」
「俺だって恵意のせいで、休んで成績が落ちるのはごめんだ!」
「楽しみにしていた行事を、近哉のせいで潰したくない!」
大きな声で言い合っているせいで周りは注目していた。 見かねたのか親友の新伍が割って入った。
「二人共、落ち着いて! もう決まったことだから、今更何を言っても仕方がないだろ」
「「・・・」」
確かに不満だが、気に入らないという理由だけではどうにもならない。
―――できれば俺は平和に学校生活を送りたかった。
―――特に目立ちもせず争い事もせず、平穏に。
―――だけど恵意が俺に突っかかってくるせいで全てが台無しだ。
―――勝手に注目はされるし、変な噂は流れ出すし。
―――俺が何をしたのか聞いても何も答えてくれないから、対処しようにないじゃないか。
近哉はずっと我慢してきたのだ。 嫌がらせに耐え、一年生をやっとのことで終えたと思ったらクラス替えはなしときた。
もう一年不愉快な日々を過ごさなければと思っていたところに、こんなことになってしまったのだ。
「近哉、大丈夫?」
「・・・あぁ」
いつの間にか恵意はここを離れていた。 同じグループであるもう一人の素乃子を見る。 彼女は席に着いて静かに読書をしていた。 恵意が駄目なら素乃子しか希望はない。
幸い素乃子との仲は悪いわけではないのだ。
「あー・・・。 同じグループ同士、よろしくな」
「・・・うん」
それだけ言ってまた読書に戻ってしまう。 ただ素乃子に関して言えば不安はそことは別のところにある。
―――素乃子はハイキングに、そもそも興味がない感じか。
―――・・・どうなるのかな、俺たちのグループ。
このハイキングレースは親と子の合同で行うものなのだ。
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