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放課後となりいつも通り新伍と一緒に下校することになった。 新伍も近哉のことを気にしていたようで、開口一番の話題がハイキングレースのグループのことだった。
「・・・ハイキングのグループの件、大丈夫?」
「・・・まぁ」
不安は多い。 というより、おそらくは上手くいくわけがないと思っている。 だが新伍に泣きついても仕方がないし、素乃子は希望になるのかもしれないと思っていた。
「近哉のお母さんと恵意さんのお母さんは、二人の関係が悪いことを知らないんだよね?」
その言葉に頷いた。 二人の仲がいいことは知っているため、それを壊してしまいそうなことは言えないのだ。
「言わないのか?」
「親同士が仲よくてさ。 言いたくても言い出しにくいんだよ」
「・・・そっか」
「まぁ、何とかなるように頑張るさ」
「本当に気まずくなったらちゃんと言うんだぞ」
その言葉に頷くと新伍と別れ家に入った。 リビングにいる母にハイキングのプリントを渡す。 両親の関係から母親が参加することは確定だろう。
「まぁ! ハイキングの詳細がやっときたのね!」
母も楽しみにしていたようだった。 プリントに載っているグループ分けを見て更に喜んだ様子をみせた。
「グループ、千崎さんのところと一緒じゃない! 嬉しいわぁ」
「・・・」
千崎というのは恵意の名字にあたる。 分かってはいたが、こう喜んでいると嫌なことは言えないのだ。 母は手を叩くと目を輝かせて言った。
「そうだ! 折角なら優勝を狙いたいわよね?」
「いや、俺は別に・・・」
「金曜日までに一度集まって、作戦会議でもしようかしら」
「それ、マジで言ってる?」
「マジマジ! 早速千崎さんに連絡しないと!」
ハイキングレースが成績に影響することは母親も知っている。 となれば、意欲的にもなろうというもの。 早速とばかりに携帯で連絡を取り始めたが、近哉はそれを見て溜め息をつきたくて仕方がなかった。
しばらく待ち返信が届くが、近哉は都合が合わなければいいのにと思っていた。 だがそれも母の表情を見れば叶わぬ夢と散ったことを思い知る。
「水曜日なら空いているって!」
「・・・そう」
「もちろん近哉たち子供も参加するからね?」
親だけでやってほしいとも思うが、合同でやるのだからそういうわけにもいかないのだろう。
「あとは水島さんか・・・。 連絡先を知らないから、直接お尋ねしないとね。 近哉も来てくれる?」
「今から!?」
水島というのは素乃子の名字にあたる。 しかし急な話だ。 母はこういうところがあることはよく知っているが、今は正直気が乗らない。
「善は急げって言うでしょ!」
嫌々ながらも腕を引っ張られ隣の家へと向かうことになった。 チャイムを鳴らすとドアが静かに開き、そこから素乃子が顔を覗かせる。
「・・・はい」
「こんばんは。 近藤です」
母がそう言うと素乃子はチラリと近哉のことを見た。
「今週の金曜日にあるハイキングの作戦会議をしたいんだけど、水曜日の夜とか空いていたりするかな?」
「・・・母に聞いてみます」
そう言うと中へと入っていった。 数十秒後、素乃子と母が出てきて気だるそうに言った。
「あー、ごめんなさい。 ハイキングの話でしたっけ? まだ参加するのかどうかも決めていないので」
「そのようなことは言わずに! 一緒に頑張りましょうよ!」
―――・・・出た。
―――無駄にお節介なんだよな、俺の母さん。
―――一度言い出すとなかなか手を引かない。
それでも素乃子の母は乗り気ではなさそうで、首を振る。
「別に私たちが参加しなくても何も支障はないでしょう」
だが近哉の母はそんなことはお構いなしだ。
「支障はあります! グループで力を合わせるからこそ、達成感があって立派な行事となるんです! それに内申点にも影響するみたいですよ。 今後のことを考えれば絶対に成功させた方がいいんです!」
母が粘った結果、仕方なくだが何とか了承を得たようだった。 素乃子の母は嫌そうに溜め息をついて家の中へと戻っていく。
「これで水曜日に決定ね。 近哉! ハイキングで優勝を狙うわよ!」
「・・・」
意気込んでいる母から視線をそらした。
―――ハイキングレースが楽しみでしょうがないの、きっと母さんと恵意の母さんだけだぞ。
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