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時刻はお昼。今までだって、何度も見かけたことがある。
ーーー彼に、愛妻弁当を届けに来る、奥様の姿を。
仔犬は奥様の顔を知らないはずだし、とっさに勘付いて私に気遣ってくれたんだろうけど。
「…よくあるよ、これ」
「えっ…、マジ?」
「挨拶したこともあるし」
「ま、マジかよ…」
見かける度に、うまく行ってるんだなーって感じてる。
分かってる、分かってるんだけど。
ーーー昼飯、行ってから帰る?
唐突に、提案された。
ハンドルに腕と顔を乗せて、チラリと私の様子を伺う仔犬。どことなく、照れているようにも見える。
ーーー慰めようとしてくれているんだろうか。
「…そうだね、近くに美味しいインドカレーがあるよ」
すると、彼の耳がピク、と反応した。いや、人間だから実際には反応してないんだけど。
「まじ?ナンある?」
「もちろん、おかわり自由だったはず」
「やりィ!それにしようぜ!」
アクセルを踏んで、路地に入るセダン。
エンジン音が、さっきよりも少しばかりご機嫌な気がした。
【つづく】

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