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エピローグ…やっぱりもどき (約1分)
氷点の上と下を行ったり来たりしていた山々は、所々その地肌を見せ始めた。塗りつぶされたゲレンデ部分は更に白さが際立って見える。
今日の雪は厳しいアイスバーンに変貌していた。
そう。僕が待ち望んでいたバーンだ。
今までが柔らか過ぎた。
かえって足を取られ危険なんだ。
怖さなんてない。
斜度なんて感じない。
スピードすら分からない。
ただ、ひたすら前に。前に。
誰よりも速くポールをくぐり、誰よりも速くゴールする。
その為に日夜、ゲレンデに立っている。
いつの頃から滑っていたかなんて覚えていない位、幼少期からずっとここに来ている。
滑るのなんて、走るのと一緒だ。
そして滑る事は僕の人生そのものだ。
硬いバーンも削るほど、前半から直線的に仕掛け、素早く切り換える。リズムや斜度の変化に柔軟に対応する。トラップを過ぎれば後はエッジでガンガン加速し攻め込むだけだ。
僅かにバランスを崩しただけで勝敗が決まる。
100分の1秒を争う世界。
僕は、誰よりも速い風になる。
その足跡を残す為に。
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