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柚葉@私だって… (約1分)
「ありがとう。ごめんね。板、持って貰っちゃって。重たくって」
「全然、全然。こんなの余裕~」
男が自分のボードを右手に抱え、女のスキー板を左肩に担ぎ、緩やかな斜面を嬉々として登る。
きっと彼女が初めてのスキーで、リフトに乗る為の練習だろう。
寄り添うようにストックだけを突きながら、彼女がぎこちなく歩いている。負けず劣らずの満面の笑み。可憐なパステルカラーのウエアを身にまとっている。
二人共とても幸せそうだ。
その脇をイントラの柚葉は自分のスキー板と子供用のを左肩に乗せ、左手の先にもうひとり分を鷲掴みし、更に右手には、もうひとり分をストック替わりに突きながら、やんちゃな3人のちびっこギャングを従え、恋人達を追い抜きサクサク登って行く。
言われなくても子供達はわざわざ吹き溜まった新雪をあたかも偉大な冒険者であるかのように突き進み、その跡を残す。
「つま先で引っ掻けて登るんだよー。そうそう、上手、上手!きっとすぐリフトに乗れるようになるよ!」
相変わらず、いちゃつくカップルの声が聞こえる。
その彼氏、あんたが思ってるほどボード上手くないよ。服装と歩き方で大体わかるし。
向こうの上級者コースでレッスンをしている柊を認め、ため息をつく。
いやいや、ホントは…羨ましいんだけどね。
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