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清孝は必死に説明をしている泉美に哀れみの目を向けていた。
―――俺が彼氏だとか、嘘をつくのがいけないんだって。
もちろん清孝が代行であると言えば誤解は簡単に解けたことだろう。 だがその気は全くなかったし、もう泉美が自分でそれを言ったところで誤魔化そうとしているように映るだけだ。
「清孝は本当に代行業で来ていただけなの!」
『彼氏役を頼んでいたのかい?』
「違うッ! ただ部屋の掃除をしてほしくて、それで・・・」
『ならどうして本物の彼氏がいるのに、彼氏役をするよう頼んだの?』
電話越しに爽志の畳みかけるような言葉が聞こえてくる。 爽志もどうなるのか分かっていなかっただろうが落ち着いたものだ。
「そ、それは、だから・・・」
『僕たち、もう別れようか』
「ッ・・・」
泉美は何も言えなくなり黙り込んだ。 その時今度は清孝の携帯が鳴り響く。 着信の類ではなくただのアラーム音。 一時間でセットしていた仕事終了の時間が来たようだ。
「一時間経った。 俺の役目は終わりだから、これで」
「え、ちょっと待ってよ! まだ話は終わってな」
「お望み通り部屋はピカピカだ。 彼氏役もやったし依頼は全てこなしただろ?」
「そんなぁ・・・」
不満そうな泉美から今日の分の料金を受け取り外へと出た。 道を歩いていると爽志と一綺に会う。 爽志が笑顔で言った。
「やぁ、清孝。 お疲れ様」
一綺が清孝と爽志を交互に見ながら不思議そうに尋ねてくる。
「一体どういうことだ? 清孝は本当に代行業として、泉美の家へ行っていたのか?」
「あぁ、そうだよ。 泉美からは掃除をするよう頼まれていたから」
「じゃあ彼氏役っていうのは?」
「あれは一綺が来た時、急に頼まれた依頼」
二人の会話を聞いていた爽志が言う。
「泉美ちゃんの本当の彼氏は僕だよ。 でもついさっき別れたから、僕は元カレになるのかな」
「・・・話が全然見えないんだけど。 俺が清孝を紹介してやったけど、爽志は一体何を依頼したんだ?」
「泉美ちゃんとの破局依頼」
「・・・は?」
「爽志は泉美と穏便に別れるために俺に依頼をしてきたんだよ」
「じゃあ泉美から来た連絡は?」
「俺が一綺に電話をかけてワンギリをした。 泉美の家に来させるために。 予想外だったけど泉美が俺を彼氏役にしてくれたから、事はすんなりと運んだ」
「爽志と泉美の依頼を同時にこなしていたというわけか」
「そういうこと」
あくまで依頼は先に受けた人のものが優先だ。 泉美から受けていたのは掃除の依頼だけで、それ以外は全て爽志に優先権がある。 もちろん金額的なことも大きいが順番は重要だ。
―――金持ちって大変だよなぁ。
―――まぁ、泉美が金目当てで爽志に近付いたのが悪いけど。
―――そりゃあフラれるわ。
その後、爽志から泉美が嘘を塗り重ねていたことを聞いた。 だがそれを見抜けなかったこともあり、爽志はなるべく穏便かつ綺麗に関係を切りたかったらしいのだ。
泉美は清孝に部屋の掃除を依頼することで、皮肉にも必死で絡めとった爽志との関係も綺麗に掃除されてしまった。 今頃、綺麗になった部屋で一人孤独感を味わっていることだろう。
「俺は利用されたっていうわけかよ・・・」
全てを聞いた一綺は不満そうに地面を蹴った。
「悪かったって。 確かに利用をしたけど、泉美の部屋は汚かったぞ? 一綺は知っていたのか?」
「・・・俺が片付けていたからな」
爽志はそれを聞き、感心したように言う。
「一綺には自分のありのままを見せていたのかもしれないね。 もう僕は終わったし、今フリーだからよりを戻すならチャンスだよ?」
「・・・いや、いいわ。 爽志の後の彼氏とかプレッシャーが凄いし。 それに嘘をつくような女とは付き合いたくないからな」
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