受けた依頼は汚部屋の掃除

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受けた依頼は汚部屋の掃除

清孝(キヨタカ)は仕事のために外へと出ていた。 清孝がやっているのは個人の代行業――――何でも屋だ。 だが大学生でありあくまで学業が本分のため、依頼主も友人や知人、同じ大学での人間が多い。 仕事専用で使っている手帳をめくり今日の予定を確認しながら歩く。 現在待ち合わせている相手は初対面で、かつ珍しく大学も違う青年。  大きな十字路のところに少々目立つような恰好をして立っていた。 しきりに時間を確認している腕時計はパッと見でも高価そうな代物。  だが依頼者はほとんどの場合お金に不自由していなさそうな人が多いため珍しくもなかった。 「貴方が爽志(ソウシ)さん?」 笑顔がとても爽やかな青年だ。 恭しく頭を下げる姿を見ても、育ちのよさを伺わせる。 「はい、そうです。 貴方が清孝さんですね? 初めまして」 「初めまして。 一綺(イッキ)から俺のことを聞いたと伺いましたが、一綺とはどういうご関係で?」 疑っているわけではないが、犯罪まがいの依頼は当然受けられない。 相手のことを確認するのは清孝の身を守る上でも必要だ。 ちなみに一綺は清孝とは同じ大学の友人である。 「一綺とは高校が同じだったんです。 部活も一緒に所属していて、それなりに時間は共にしたと思います」 ―――・・・怪しい者ではない、か。 そうだと分かると気軽に話しかけた。 堅苦しいのはどうも苦手である。 「了解した。 言葉は崩してもいいよ、爽志って呼ぶから。 じゃあ早速依頼の内容なんだけど」 「ここだとあれだから、どこかに寄ってもいいかな?」 辺りを見渡し目に付いた近くへのカフェへと向かう。 この辺りは普段から通ることも多いため大体場所は把握していた。 依頼内容は本当に簡素なもので、話しながらでも終わるようなこと。  30分程で打ち合わせと話しを終え、何でも屋としての仕事も終えてしまう。   ―――今回は楽な仕事だったな。 用意されたコーヒーを口に含み、手帳に記している間に爽志は会計も済ましていた。 ―――こういう男がモテるんだろうなぁ。 二人は店を出て通りを歩く。 依頼は終わったが、まだ依頼料を貰っていないのだ。 「今日はありがとう。 一綺から清孝を紹介してもらって助かったよ。 また何かあったら依頼してもいい?」 「どうぞどうぞ」 爽志はポケットから財布を取り出した。 やはり相変わらず高級感を感じる。 「料金は一時間千円だっけ?」 「いや、一時間も経っていないから半額でいいよ」 待ち合わせから考えてもまだ40分程だ。 普段はそれでもきっちりお金を受け取るが、相手の羽振りのよさからいい関係を築いた方がいいと清孝は考えていた。  だが、爽志の出した金額を見てギョッとすることになる。 「ごめん、お札しか持っていないんだ。 チップ込みの十万円で」 欲しくないと言えば嘘になるが、意味不明な大金を受け取ることはできない。 「いや、多過ぎるって。 流石に受け取れないから」 「そうは言わずにさ」 爽志は清孝に歩み寄ると、ソッと耳打ちした。 そうした後、手を振りながら笑顔でカフェの中へとまた戻っていった。 清孝の手には爽志から押し付けられるよう受け取った十万円がある。 ―――荒稼ぎ過ぎだろ・・・。 違法のものでなければ依頼は何でもいい。 確かに相手はお金を持っている相手なことが多いがこんなことは初めてだった。 あまりに普段受け取っている金額とかけ離れているのだ。 ―――そういうものなのかな。 そういう風に思うことにし、頭を切り替える。 これだけ稼げてしまえばもう今日は休みにしてもいい気分だったがそうもいかない。 受けている依頼はまだまだあるのだ。  受け取ったお札を自分の財布に入れていると携帯が鳴る。 相手は同じ大学の女子だった。 『あ、もしもしー? 清孝って、明日一日空いていたりする?』 手帳を見て予定を確認する。 丁度よく一日空いているようだった。 「あぁ、仕事は何も入っていないな」 『丁度よかった! 明日頼みたいことがあるんだ!』 「依頼か?」 『そう! 久しぶりに友達と二人で、テーマパークへ遊びに行こうって話になって! アトラクション乗るまでに時間がかかるから、清孝に代わりに並んでおいてほしいんだよね』 「なるほど。 順番待ち代行か」 『その通り!』 代行業を頼んでくるのはお金より時間的な損失を嫌う人間が多い。 清孝は自身の時間をお金持ちに売っているようなものだ。 だが先程の一件で明日は休みにしてもいいかとも思っていたのだ。 「いいけど、一日だと高くつくぞ?」 『それも覚悟の上!』 もとよりそのつもりで依頼してきている。 清孝も相手の信頼を失うわけにはいかない。 「分かった、明日な。 細かい時間帯は後でまた連絡してくれ。 予定に入れておく」 『了解! ありがとう!』 軽く息をつき、早速スケジュール帳に記入する。 ―――ただ並んでいるだけの簡単な仕事か。 ―――楽だけど暇そうだなぁ。 ―――ゲームでも持っていこう。 ―――えっと、次の依頼は・・・。 次は“泉美(イズミ)の部屋の掃除を一時間”という仕事だ。 だが一時間きっちりなところを見ても、泉美は金持ちの部類ではない。  同じ大学に通う友人で、ちょっとしたことから頭の隅で気になる名前でもあった。 ―――部屋の掃除か。 ―――丁度、ここからならすぐ近くだな。 ―――一時間だし、サクッと終わらせてくるか。
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