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3月
快晴の下、人で賑わうのは高校の合格発表。
雪の残る寒さだが、ここだけは熱気にあふれていた。
立ち昇る白い吐息。歓声と、落胆の声。
平均よりやや背の高い俺は、掲示板前の人垣の中、背伸びをして自分の番号を見つけた。
一緒に来ていた友人も同じく番号を見つけ、二人でハイタッチ。
邪魔になってはいけないのですみやかに抜け出ようとすると、視界に入った、上下する低い頭。
女子の平均よりも低いらしい彼女は、人垣を越えて番号を見つけ出そうと必死に跳びはねていた。
かぶっているニット帽のポンポンが揺れる。まるで、小動物のようだ。
「どした?」
足を止めた俺に気づき、友人が同じく見やる。
「ちっちゃ。あれじゃ見えないわ」
友人の言う通り、どんなに跳びはねても人の頭を越すことはない。
そんな小動物に対し、周りの人間は無情だった。
友人グループで来ていた数人がぞろぞろと抜けると、彼女の周りに波ができた。
背の低い彼女はなんとか踏ん張るが、頑張りは虚しく後ろへと流される。
そして、新たな人壁が彼女の前にできた。
しゅん、と、肩を落とす彼女。
「……ちょっと待ってて」
人垣を抜け出たところで友人に言い、俺はUターンする。
彼女の後ろから人をかけ分けて割り込んでいく。
彼女の前に出ると、受験番号の貼り出された掲示板に向けてさらに人をかき分けた。
「すいませーん。目悪くて見えないんで、通してくださーい」
白々しく声を上げながら。
女子の短い悲鳴や「でかいくせに」と聞こえるが、気にしない。それよりも、この三文芝居が薄寒くて、恥ずかしい。
彼女は驚いた顔をして見ていたが、すぐにこれ幸いとばかりに俺の後ろにくっついて一緒に突き進んだ。
そして、前列までたどり着くと。
「受かったぁ……!」
と、小さな感動の声が聞こえた。
ニット帽のポンポンも嬉しげに揺れている。
ちらりと見た、彼女の横顔から溢れる幸せオーラは、彼女の頰をさくら色に染め上げたようだった。
❇︎❇︎❇︎
「くっさい三文芝居だったな」
改めて人垣を抜け出た俺に、友人は容赦なかった。にやにやと意地悪く。
やたらと絡んでくる友人を「うるせぇ」とあしらい、巻いていたマフラーで出来るだけ顔を隠した。友人は気づいたのだ。
俺の頬も、さくら色に染まっていることに。
それはきっと、彼女の幸せオーラがうつってしまったせいだ。
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