11月

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11月

   街路樹が暖色のグラデーションを織りなし、足元には落ち葉や木のみが転がる。  登下校はブレザーを着ないと寒く、日中はカーディガンを羽織るくらいがちょうどいい、そんな秋の夕暮れ。  期末考査に向けて、今回もまた図書館でひなたと勉強会をした帰り道。  予報にもなく、気まぐれにやってきた雨雲は突如雨を降らせ始めた。  傘など持ち合わせておらず、コンビニも近くにない。  ひとまず、と公園に走り込み、ベンチ上に屋根のあるシェルターで雨宿りしている。 「ちょっと濡れたなぁ。ひなた、大丈夫?」 「うん、大丈夫」  ブレザーについた雨粒をハンカチで拭きながら、ひなたは雨脚を見ていた。 「通り雨かなぁ」 「じゃないと困るな。ひなたは家までどのくらい?」 「歩いて20分くらい、かな」 「20分か……」  俺ひとりなら濡れようが気にせず走って帰るが、ひなたを雨の中走らせるわけにはいかない。  だが、雨雲がかかっていることもあり辺りはすっかり薄暗くなってしまった。雨で気温もぐっと下がった。  早く帰らないと風邪をひかせてしまうなぁ、と思っていると。 「くしゅんっ」  可愛らしいくしゃみが聞こえた。 「寒い?」 「ちょっとだけ……」  ひなたは手をこすり合わせた。  少しだけとはいえ、雨に濡れたせいか顔もいつもより白く見える。  俺はスクールバックに乱雑に入れていたカーディガンを取り出し、それをひなたにかぶせた。 「羽織ってなよ」 「だったら、旭くんが」 「俺はさっき走ったから寒くないし。嫌でも、風邪引いたら困るから羽織ってて」  そう言うと、ひなたは大人しくカーディガンを羽織り直した。  俺が着るにもゆったりとしたカーディガンは、学祭でワイシャツを着せた時よりもさらにぶかぶかだった。  すっぽりとスカートまで隠れ、そこから見える太ももは…… 「(これは、さすがに……)」  目を逸らすことで、なんとか耐えた。  ❇︎❇︎❇︎  雨は次第に収まり、通り雨だったことがわかる。すっかり暮れ、雨雲が晴れても陽が射すことはない。  街灯が照らす地面はところどころ照り、大きな水たまりもつくっていた。 「そこ、水たまりがある」  足を突っ込みそうになるひなたの手を引っ張った。カーディガンの袖が邪魔し、布越しの感触。 「ありがとう」 「いいえ。袖、まくらないの?」 「うん。このままの方があったかいから」 「……寒いなら、手、繋ぐ?」  カーディガン越しに掴んだ手を離さずに、ひなたに問うと。ふふっ、と笑われた。 「カーディガンだけで十分だよ」  そっと手を引き抜かれ、虚しさと恥ずかしさが残る。明かりは街灯だけだが、火照った顔を見られたくない。  時折り振り返って歩調を合わせながら、俺はひなたの前をゆっくりと歩いた。  ❇︎❇︎❇︎  この頃から少しずつ、ゆっくりと。  これまでのことも含めて噂が立ち始める。  それは俺も、ひなたも、耳にすることはなく。  水面下で静かに広まっていった。
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