7月

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7月

   梅雨が明け、雲のかからない青空が続く毎日。日差しは強くなり、だんだんと汗ばむようになった。  期末考査前のテスト対策として、俺は冷房の効いた図書館に来ていた。  ひなたと2人、お互いの苦手教科を教えあう約束で。 「旭くん、ここってどう解くの?」 「ここは、この公式を当てはめて……」 「ひなた、この英文はどう訳したらいい?」 「これは、これとこれで連語になるから……」  いつもならつまずく苦手教科が、この日は捗り予想以上に解くことができた。  ひなたも最後の問題を解き終え、お互いに答え合わせをする。  ひなたの小さく女の子らしい字が並ぶノートに、赤ペンを走らせた。 「ちっちゃい字。ひなたみたい」  ふ、と笑みがこぼれる。 「あ、ごめんね。旭くん、目が悪いんだっけ」  からかいまじりに言ったはずが、ひなたは気づくことなく謝ってきた。  それも、理由がよくわからない。 「目が悪いって、どうして?」  俺は別に視力が悪くはないので、眼鏡でもコンタクトでもない。  そんな素振りを見せたことがなければ、話題にしたこともなかった。 「え、だって。合格発表の……」 「えっ?」 「あっ」  ひなたは口に手を当てた。  見る見るうちに頬が上気していく。  合格発表の、というと。  思い当たることがひとつだけ。  俺もつられて、上気した。 「……あのね、旭くん」  改まったひなたが、俺のノートをぎゅっと持って。 「始業式で声をかけてくれた時は、気づかなくてごめんね。今さらになっちゃうんだけど、あの時は」  上目遣いの瞳が、俺をまっすぐと見た。 「助けてくれて、ありがとう」 「……どう、いたしまして…………」  言い切る前に突っ伏した。  しゅぅぅぅ、と音が出そうなほどに、顔が熱い。もしかしたら本当に煙が上がってるかもしれない。 「(なんだよ、覚えてたのか……)」  突っ伏したままの俺にひなたが何度も声をかけてくるが、しばらく顔を上げられそうになかった。
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