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息が上がり酸欠状態になる頃にはお互いが昂まり、そのままベッドに行くのは自然の流れだった。
でもそこには誤算があった。
経験のない僕はもちろん、おそらく男は初めてだっただろうあの人も、男同志の行為の仕方を知らなかった。
本能のまま彼は僕の体を弄り、舌を這わせ、お互いを限界まで昂らせて行った。
けれど、僕の体は女のそれとは違う。自ら濡れ、柔軟に広がることは無い。
限界に達した彼の熱い塊が僕の後孔にあてがわれ、入ってこようとした瞬間、激しい痛みが僕の脳天を突き抜けた。
『やめてっ』
思わず出た言葉に彼は動きを止め、そして目を見開いた。
その時彼は何を思っただろうか?
ただただ痛みと恐怖のために出た言葉だと思ったか、それとも、酔いが覚めて正気に戻ったために彼自身を拒絶したと思ったか・・・。
おそらく僕達は、その時ボタンをかけ違えてしまったのだ。
ひどく傷ついた顔をした彼は、行為を再開した。
そしてそこからはただの暴力に変わった。
彼は力で僕を捩じ伏せ、無理やり僕を犯した。
あまりの恐怖と息もできないほどの痛みに意識を飛ばした僕が目覚めた時、彼が豹変してからの記憶しか残っていなかった。
体は重くてだるく、後孔は傷ついて少し動くだけでも激痛が走った。
その時の僕がもう少し冷静だったなら、体はキレイに拭かれ、手当され、ベッドのシーツも取り替えられていた事に気づいただろう。でも、その時の僕は切れ切れの記憶と体に残った強行の跡で頭がいっぱいだった。
その後訪れた彼を見ても、その時の恐怖と激痛が僕を支配して、逃げることしか出来なかった。
入試の日のことも、あの時の玄関で交わした貪るようなキスも、僕の中から抜け落ちてしまった。
自ら鍵を渡したことすらも・・・。
彼を変えたのは僕だ。
僕が彼を『酷い人』にしてしまった。
僕の態度が、彼に酷いことをさせてしまったのだ。
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