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十数年前の記憶と共に目覚めた僕は、まどろみの中であの人・・・直人との時間を思い出していた。
あの強行の後、僕は熱を出して大学を休んだ。
おそらく体のダメージと精神的なショックが重なっての熱だったと思う。
一人暮らしの僕は熱に浮かされながらただ眠っていることしか出来なかったが、夢現の中で誰かの優しい手を感じていた。でも、誰かがここにいるはずがないと、僕はそれが夢だと思っていた。
もしかしたらあれは、直人だったのではないか?
でもそれが誰なのか、ましてや現実だったかを確かめる前に直人が家を訪れ、僕はその姿に怯えることしかできなかった。
傷も熱も癒えぬまま、僕は再び彼に力で犯された。
僕はきっと、彼への対応を間違えてしまったのだ。
たった一度の『やめて』の言葉が、直人との関係を歪めてしまった。
僕はもっと言葉を紡ぐべきだったのだ。
決して彼が嫌だったわけではなかったと、むしろ好意を持っていたと伝えるべきだったのだ。
僕はきっと、初めから直人が好きだったのだから。
あの入試の日から、僕はずっと彼が好きだった。だから気になった。だから、鍵を渡した・・・。
なのにあの夜の出来事が僕から甘やかな記憶を消し、怖かったことしか僕の中に残さなかった。
なぜそうなったのか。
もしかしたら、僕自身の自己防衛本能だったのもしれない。
好きな相手に乱暴された現実を受け止めることが出来ないと判断した僕の心が、彼への思いを隠してしまったのかもしれない。
とにかく、その時から僕と直人の歪んだ関係は始まった。
最初は力ずくだった関係も、僕の体が苦痛に慣れて快楽を感じるようになると、自ら受け入れるようになった。それに伴い、心からも恐怖が消えて彼との交わりを求めるようになっていった。
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