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「初めから知ってたわけじゃない。義弟が送ってくれと行った先にユウがいたんだ。初めはただの会社の先輩だと聞いていた。だけど、手術を待っている間に交わされた会話から中にいるのが『せなゆう』だと分かった。その名前に心臓が壊れるくらい鼓動が早くなって、オレの知るユウなのか、それとも別人なのか、頭の中がぐるぐる回って・・・」 震える腕に力が篭もる。 痛いくらいなのに、僕はそれを拒めなかった。 「手術を終えて出てきたユウを見て頭が真っ白になった。オレの知るユウだった。手術を終えていろいろ管に繋がれて、ガリガリに痩せてた。医師の話でも手術自体は成功したが衰弱が激しくて、意識が戻るまでは安心できないと言っていた」 直人は僕の体を確かめるように肩や背中を撫でた。 これでも入院前より体重が増えている。 「お前はオレから離れて幸せの中で暮らしてると思ってた。元々太ってたわけじゃないけど、だけどこんなに痩せ細ってるなんて・・・。ユウがいなくなって一年、一体何があったんだ?どうしてこうなったんだ?なぜユウは今ここに眠っているんだ?何も分からない。何も聞けない。ただただ疑問だけが頭の中を巡り、最後は死ぬかもしれないという絶望に襲われる」 泣いているのかと思った直人は目をきつく瞑り、なにかに耐えるようにぐっと堪えている。 「次の日も送迎を頼まれて病院へ行ったんだ。そこは更に酷かった。ICUのガラス越し、医師と看護師が慌ただしく処置をしていた。昨日付き添ったユウの身内だという人が、突然心停止を起こしたと教えてくれた。その人は目に涙を浮かべてじっと中を見ていた。義弟も顔色を変えてガラスに張り付いた。後から来た会社の社長も同じだった。だけどオレは妙に落ち着いていた」
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