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その時の光景を思い浮かべて、僕は改めてみんなに申し訳ないと思った。
目覚めてからみんな何も無かったかのように接してくれていたけど、本当はすごく心配させてしまってたんだ。
「投薬して心臓マッサージをして、電気ショックをしても、心拍の波形は戻らなかった。オレはそれをまるでドラマのワンシーンを見るように見ていた。そして漠然と、このままユウが戻らなかったら、オレも死のうと思った」
その言葉にぎょっとした。
直人も死ぬ?
「ユウがどこかで生きていると思ってたから、オレも生きてこれたんだ。どこかで同じ空を見て、季節を感じ、笑って過ごしていると思ったから、オレはユウの幸福をずっと祈って生きていけるんだ。なのに、そのユウがいなくなったら、この世界はオレにとってなんの意味もない。生きてる意味がないんだ」
直人にこんな思いが隠れてたなんて知らなかった。いつも素っ気なくて冷たい感じだったのに、中がこんなに熱いなんて・・・。
「でもユウは二回目の電気ショックで戻ってきてくれた。心臓は再び動き、バイタルが安定した。まだまだ意識が戻るまでは安心できないけど、とりあえずの危機は脱した。その時思ったんだ。オレが思うユウの幸せは違うのではないか。なら、ユウの幸せとはなんなんだろう?オレは直接聞きたいと思った。ユウは嫌がるかもしれないけど、ユウが目覚めたら会って聞きたいと思った。そしてその時、オレはユウを愛するただの男になっていなければダメだと思った」
腕の力が緩んで、直人は僕に視線を合わせた。
「だから、ユウが目覚めた時にちゃんと向き合えるように妻とは別れた。そして、自分の敷いたレールから外れることを許さないと言った父親とも縁を切った。父の決めた会社も辞めた。財産も全て別れた妻に渡した。今ここにいるのは家も仕事も金もない、ユウを愛するただの男だ。・・・それでもユウは、オレを好きでいてくれるか?オレといることがユウの幸せだと、自惚れてもいいのか?」
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