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僕の目を見ながらの真剣な告白に、僕は急に我に返った。
こんな・・・こんな都合のいい話がある訳ない。やり直そうと決めて、退院したその日にこんな夢のような展開が待ってるなんて・・・。
「ユウ?」
何も言わない僕に直人が問いかける。
「夢・・・だよね?こんなすぐに僕の願いが叶うなんて、有り得ない。僕はまだ夢を見てるんだ。・・・もしかしたら本当はもう死んでいて、最後に幸せな夢を見ているだけなのかもしれない」
僕はまだあの草原にいるんだ。そこで最後の夢を見てるんだ。
そもそもおかしな話じゃないか。
陳腐な臨死体験の再現VTRのような草原に、お迎えに来た亡くなった両親。それに三途の川なんて・・・。
有り得ない。
直人だって・・・まるで僕が望んだ理想の直人じゃないか。
本当のナオは優しくて、僕だけを愛してくれてて、結婚だってなにか事情があったのかもしれない。
直人を愛してると認めてから、僕は心のどこかでそんなことを思ってた。そんな、思ってた通りの優しい直人が急に現れて、僕が望んだことを言って、その上こんな告白するなんて、絶対に有り得ない。
「本当は僕・・・死んじゃってるのかな?」
涙が溢れて零れ落ちた。
この今の状況に現実味を感じない。
僕はまだあの草原に立ち、風に吹かれながら夢の中をさまよっているんだ。
「だったらオレも死んでるんだな。死んで夢を見てるんだ。こんな風にユウを抱きしめてるんだから。今までずっと、ユウはオレに触られるのが嫌なんだと思ってた。だからいつも、ユウが眠っている時しかできなかったんだ」
僕の涙を親指で拭って、そのまま両手で頬を包んだ。
「幸せなら夢でもいいじゃないか。オレはこうやって腕の中にユウがいてくれるだけで幸せだ。こんな幸せな夢なら覚めないで欲しい。ユウは?ユウは今幸せ?」
温かい直人の体温。
直人の匂い。
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