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僕は夢を見ている。
ぼんやりとした感覚の中、僕は過去の夢を見ていた。
あれはまだ大学に入ったばかりの頃、わけも分からずいきなり腕を引かれて行った、どこかのサークルの新歓コンパ。
僕の腕を引っ張ったのは誰だっただろう?
全くの無関係の僕は状況が飲み込めず、どうやってここから抜け出そうか考えていた。
まだ未成年の新入生はみんなソフトドリンクを飲んでいたが、うっかり隣の先輩のウーロンハイを間違えて一口飲んでしまってからはあまり記憶が無い。
ふわふわして楽しくて可笑しくて。そんな僕を家まで連れて帰ってくれたのは誰だったのか。
たったひとくちのお酒でおぼつかない足取りになった僕の腰に手を回して支えながら、ドアの鍵を開ける手を僕は見ていた。
僕の家の鍵を開ける、僕のじゃない手・・・。
それがとても嬉しかった。
急に一人ぼっちになって、本当は寂しかった。
誰もいない暗い家に帰って、誰も来ない部屋で一人で過ごす。
初めは気を張っていて気づかなかった寂しさに、気づいてしまったのはいつの事だっただろう。
置きっぱなしのスペアキー。それを見る度に渡す人がいない寂しさに襲われた。
僕は一人ぼっちだと思い知らされた。
だから。
きっとあんなことを言ってしまったのだ。
鍵を開けて入った玄関の靴箱の上。鍵置きにしている小さな物入れを見つけたその人がそこへ鍵を戻そうとした時、僕はその手を止めてしまった。
『あげる』
鍵を持った彼の手を両手に包んだ。
僕より背の高い彼は驚いた顔をしている。
ああ、これは彼との始まりの記憶だ。
ずっと思い出せなかった、僕とあの人の最初の記憶。
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