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「いいわよぉ」
「……えっ」
深夜……新宿区全てを手に入れたような気持ちで見下ろす事が出来る、東宝ビルの最上階……
その部屋に住む、我等が皇組組長……俺が歌舞伎町に来てからの育ての親でもある皇斬江。
彼女は全裸でシーツに包まりながら、ベッドの上にて俺の横に座り……共に夜を過ごそうとしていた。
「原付の免許を取れば……配達の仕事とかも出来るようになるし、仕事の出来る幅が広がるわぁ」
「……しかし、免許を取る事自体、お金がかかってしまう物なのでは?」
……以前、瀬名さんと仕事の休憩中にて何処か遠くに出掛けるのであれば、バイクが適しているのでは無いかという話をした。
しかしバイクを取るのには免許がいる……免許を取るには金がいる。
斬江に借金を返す以外に、原則的に金は自由に使う事は許されない……態々取る必要も無いバイクの免許を取る為に、最初に斬江の許可から取る事は不可能だと思っていたのだが……
「原付の免許はねぇ、一万円以下でしかも一日で取れるのよ」
「そうだったのですか……あの、原付って何ですか?」
「郵便屋さんとか新聞屋さんとかが乗ってるバイクがそうよ〜……スクーターって言うのも聞いた事あると思うけど、それも原付の物が多いわぁ」
「……なるほど」
斬江の部屋に呼ばれ、いつものように相手をした後……斬江はまだ仄かに汗をかいており、頬を染めて呼吸も少し深く行いながら、原付についての説明をしてくれた。
「でもね……それ以上に大きなバイクだと、自動車みたいに何日も分けて教習所とかに通わなきゃいけないから、お金とかも沢山かかるの……だから今の所貴方が取っていいのは、原付の免許だけよ」
「はい……どのようなバイクであれ、運転させて頂けるだけで幸いです」
「ふふっ……その代わり、貴方の欲しい原付のバイク、どれでも一つ好きなのを買ってあげるわぁ」
「えっ……本当に良いんですか?」
「ええ……私も母親らしく、息子の我儘の一つや二つぐらい、叶えてあげないとねぇ」
「斬江さん……」
彼女が言った言葉に合うような、正しく包容力がある優しい笑顔を浮かべる斬江……
しかしその直後、俺の上裸に抱きついて寄りかかりながら、指で俺の胸をなぞり……母子の一線を軽々と越えさせてしまうような"誘い方"を仕掛けてくる。
美味い話には裏がある……褒美や恩を提供する前には、必ずそれに見合った代償を要求してくるのが、昔からの斬江の性格だ。
「っ……」
そして艶めかしく舌を舐めずる斬江……欲しい物は買ってやるが、その代わりに再度この私を満足させてみろという事か。
子供の時に無理矢理、男としての本能を目覚めさせられてから五年……今まで斬江には、夜な夜な女を雌へと変える火の起こし方を散々指導されてきた。
……当然、斬江を悦ばせる為の責め方も、本人から直々に教わり弄ってきた。
日頃の彼女に対しての不満をぶつける為にも……ここは少し激し目にいかせてもらおう。
「……きて?」
「……失礼します」
「あんっ」
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……それから一週間後。
「……ふむ、ここら辺りで待っていればいいのか」
「仁藤くんの方から呼び出すだなんて珍しいじゃない?」
「何か……あったのかしら……」
日曜日……新宿中央公園にて、俺は真緒さん達にその場所にて待っていて欲しいと指示をしていた。
「やまちゃんは、まだ来ていないのぜな?」
「これは最後に堂々とやってくるパターンね」
「寝坊しちゃったのかしら……」
「呼び出しておいて遅刻してくるとは良い度胸では無いか」
そう、本来ならば真緒さん達を呼び出した本人であるこの俺が、最も早くその集合場所に辿りついておかなければならないのだ。
しかし、今回の企画を成功させる為には……皆には申し訳無いが、一番最後に登場しなければ成立しないのである。
だからと言って、彼女達を待たせて良い理由にはならない……汗だくになりながら、転びそうになろうが関係無く走って向かうのでは無く
……新宿を通る数多の車を避けながら、真緒さん達の元への向かう。
「……ん?」
そしてあちらこちらに行き来する車に紛れて……俺は真緒さん達のいる道路の側に駐車した。
皆に誰だこいつは言っているような顔を向けられながらも、その正体を明かす為に早急にヘルメットを外す。
「……皆さん、お待たせしました」
「ええええっ!?」
「ほう、意外な登場の仕方であったな」
「仁藤くん……いつの間にバイクの免許なんか取りに行ってたのね」
「かっこいいわ……仁藤くん……」
「はい……ありがとうございます」
一応、免許も取ってバイクも買ったという事を、サプライズも交えて四人に報告する事に成功をした。
左車線の車の邪魔にならないよう、バイクを押して歩道の中に入れてしまう。
「ふむ、つまりはお前はバイクを見せびらかす為に、私達を待たせていたという事だな」
「いえ、一応ご報告という形で……あまりにもお待たせしてしまっていたのであれば謝ります、すみません」
「でも何で急にバイクに乗ろうと思ったの?」
「仕事の幅を広げる為に取ったのが一番の理由ですかね」
「凄いわ……仁藤くん……」
「あっ、ありがとうございます」
「おおお……!」
免許を取ろうと思った説明を聞いている一方で、彼女達はバイクをありとあらゆる方向から舐め回すように見ていた。
……そんな中、新宿区のナンバープレートを見た飯田さんがある事に気が付く。
「……ってこれ原付じゃない?」
「……本当だな、見た時から普通のバイクより一回り小さいとは思っていたが」
「原付って何なのぜ?」
「スクーターとかと一緒よ、公道だと三十キロしか出せないし、大きい交差点とかだと一発で右に行っちゃいけないルールとかあって色々面倒くさいのよ……あんたよくここまで死なずに来れたわね」
「どうせなら中型とかに乗ってしまった方が良かったのではないか?」
「中型は免許もバイクもかなりのお金がかかってしまうので……今の所は、原付で我慢するといった感じです」
「何ていうバイクなの……?」
「はい、マグナフィフティというバイクらしいです」
「うん、ギア車ってやつね」
「それだとアメリカンタイプのバイクであった筈だ……千夜もよく知っているのでは無いか?」
「うん……ハーレーとかと一緒……そう思うと、このバイクは大きくて原付に見えないわ……」
「スクーターの方は選ばなかったのね」
「はい、どうせなら出来るだけ格好つけておきたくて……」
「そういう所は男らしく行きたい気持ちは分かるぞ」
「ははは……」
「まっ、ままっ、跨ってみてもいいのぜ!?」
「勿論構いませんよ」
「ありがとなのぜ!」
そうして瀬名さんは俺からの許可を取ると、スタンドを立てたままの状態でそうっと足を上げてマグナのシートに跨った。
「おおお……!」
「あら似合ってるじゃない」
「アメリカンタイプに乗っている女子は、ギャップに惹かれる物があるな」
「ひとみちゃん……可愛くて、かっこいい……」
「えへへ……でもやまちゃん凄いのぜ! 免許を取るのを待ってて欲しいって言ってたのに、もう取っちゃうなんて!」
「何の話?」
「以前瀬名さんと、何処か出掛けるにはバイクで行く方が適しているのでは無いかというお話をした事があるのです」
「ほう、お前達のただの散歩もそこまで進化をしていたとはな」
「ツーリング……楽しそう……」
「これならやまちゃんに乗っけて貰って、色々な場所に行きたい放題なのぜな!」
「残念ながら原付での二人乗りは出来ないぞ」
「ええっ!?」
「一応警察の人が言ってるんだから、まぁそういう事よ」
「いいな〜、あたいも乗りたいのぜ……」
一瞬だけ喜ぶも日本の法律を聞かされて、瀬名さんは俯いてスピードメーターを悲しそうに見つめている。
「ならひとみちゃんも……原付の免許を取っちゃえばいいわ……」
「ええ〜っ!? あたいには無理なのぜよ……お金無いし」
「原付の免許なんて一万円以下で一日で取れちゃうわよ」
「えっ、ほんとなのぜ?」
「ああ、後は学科試験をクリア出来るかどうかだな」
「がっか、しけん……テストって事なのぜ?」
「はい、要するにこれからお勉強という事です……中学高校に通っていなかった俺でさえも取れたのですから、瀬名さんにだってきっと取れます」
「そう、なのぜか……でも免許を取るのはいいけど、その後にバイクを買うお金が無いのぜ……」
「バイクなんてこの都心の中で色々な値段で売られているさ、何なら今からでもチラッと見に行ってみるか?」
「……うん! 一応見に行ってみたいのぜ!」
「お気に入りのバイクを見つけて、免許を取る為のモチベに繋げられるといいわね」
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その後、俺達は西武新宿駅から新所沢行きの電車に乗って……下落合駅という場所にやって来た。
欲しい物は何でも揃うようなイメージのある新宿駅周辺……しかしその場所で売られている物の大半は生活用品ばかり、それ以外の本当に欲しい物に限ってどこにも売られて無かったりする。
バイク屋などは、そもそも店と店との間隔が近い為にそれで移動する必要が無い……そもそも人が多いから移動する事も出来ないという理由で、買う人もいなければそれを設置する必要も無いのだ。
初めは俺も、バイクぐらい新宿駅周辺に売っている物だと思っていた……しかし店が無いその理由にも気が付かず、買ったのは結局新宿三丁目外れの店であった。
……そして今から、その店に瀬名さんを連れて行こうとしているという訳である。
「……着きました、ここです」
「おお〜、いっぱいあるのぜな〜!」
到着してから早々、店頭に並んでいたバイクの列に真っ先に飛び込んで行った瀬名さん。
やはり店頭に出すからには、その店が最もアピールをしていきたい商品なのであろう……どのバイクも新品のようにピカピカだ。
「しかしここにある物は、どれも原付では無いぞ」
「まぁどう見ても、全部大きなバイクだし」
「どれも、高い……」
「ひいぃっ……! こんなにお金があったらまずちゃんとしたお家に住むのぜ……」
「安い物は中に沢山あります。 行きましょう」
「う、うん……」
値札にかかれてあるゼロの数に目を回していた瀬名さん……彼女達を引き連れて、鉄と油の匂いが漂う店内へと入って行く。
「お店の外にあった物よりも……少しだけ安くなったわ……」
「でも皆大きなバイクなのぜ……あたいの足じゃ届かないのぜな」
「そもそもここにある物は皆中型だから、どっちにしろ原付の免許取っても乗れないわよ」
「これら以外にも、もっとバイクはあるのだろう?」
「はい、原付のコーナーは二階です」
店頭に並べられていたもので約五十万……店内に入っても平均して三十万円と、まだまだ気軽に購入が出来るような値段では無い。
そうして未だに値札を見てあわあわとしている瀬名さんを誘導して、俺達はそのコーナーがある二階へと上がっていく。
「おおお……!」
「そうそうここよ。 ここが私達に適してる場所だわ」
……一階の物とは比べて、全体的に一回り小さくなった物のバイクが並ぶ二階。
こちらに向いている値札も、パッと見て十万円台の物が多い……。
因みに俺のマグナもそのコーナーにあった物だ……漸く高校生でも買う事が出来るようになった値段帯であろう。
しかし瀬名さんは彼等よりも多く働いている分、給料の大半は生活費に費やさなくてはならない……果たして瀬名さんに、趣味に使えるだけのお金の余裕があるのだろうか。
「ぐぬぬ……やっぱりこれぐらいしちゃうのは仕方が無いのぜか」
「嫌なら無理して買わんでいいだろうしな、生活を懸けてまでも乗る必要はあるまい」
「いや無理なんかしてないのぜ! でもやっぱり、買うなら出来るだけ安い方がいいのぜな」
「とりあえず値段とかは気にしないで、まずは自分のお気に入りのバイクでも見つけてみたら?」
「そうしてみるのぜ!」
飯田さんの助言通り、瀬名さんはまず店内を軽く一回りしてみる事にした。
一時的に料金という枷を捨てて、夢を見る事を許された瀬名さん……楽しそうに店内を駆け回る瀬名さんを見守りながら、俺達も後に続く。
「ひとみがバイクか……元々アウトドア派のイメージがあるから、どのようなバイクに乗っても様になりそうだな」
「皆さんもバイクの免許とかお持ちなんですか?」
「仕事でパトカーや白バイに乗る事も想定して、警察に就職する前から車や中型の免許は取っておいたぞ」
「あら意外ね、あんたが車に乗ってるイメージなんか全く無いんだけど」
「あの辺りに住んでいると、複雑な路地は車で行くよりも徒歩の方が何かと効率がいいからな」
「私も原付の免許だけは持ってるわよ。高校生の内から取れるし、取れるもんなら早めに取っといた方がいいなって」
「車の方は、取らないの……?」
「車はね〜……高校を卒業してからは大学の事もあるし、今では仕事もしてるし取りに行く時間が無いわ」
「なるほど……」
「あっ、因みに私の乗ってるバイクこれね」
「かっこいい……」
「クロスカブか……ふむ、カッコ良さ路線で選んだか」
「ただ可愛いバイクよりかは、パワフルで頑丈そうな方が良いじゃない?」
「確かに飯田さんのお家に停まっていましたね」
飯田さんがハンドルに触れたそのバイクに皆が注目している中、瀬名さんは既に店内の半周まで到達していた。
難しい表情をしたまま、店内のありとあらゆるバイクを目視していく……まだ彼女のセンスに合う物は見つけられていないようだ。
「皆、いいな……私は免許は持ってないから、バイクには乗れないわ……」
「持っていなくても別に困らないわ、それに新宿を原付で移動するの正直危ないし」
「心配はいらんぞ千夜。免許など無くとも皆で何処かツーリングに出掛ける場合は、お前さえ良ければ私の後ろに乗せてやろう」
「タンデムってやつですね」
「いいの……? ありがとう……」
「あんたもバイク持ってたの? あのアパートでそんな物停まってるの見た事無いけど」
「停めてもあまり乗らないだろうし、車体自体は実家の方にある……お前達原付とは違う、二ーハンのバイクがな」
「にーはん……? 何だか、チャーハンみたい……」
「二五〇シーシーと呼ばれるバイクの事ですね」
「あんたみたいなお嬢様とは違って、こっちは中型取るお金なんか無いのよ……てか皆でツーリングする前提で話進んでない?」
「折角皆でバイクに乗れるなら、電車に頼らない旅も良い物だろう?」
「それは別にいいけど、厚木からここまで原付で来れるかしら……」
バイクというアイテムが増えたおかげで、皆との休日の話題がどんどんと膨らんでいく……
……その一方で、瀬名さんはとある一つのバイクの前で立ち止まり、目を丸くさせながらその車体を見つめていた。
「どうしたひとみ、もうお目当てのバイクは決まったか?」
「……これが可愛いかもなのぜ!」
そうして瀬名さんが指をさしたバイクの名は……ホンダのジョルノと呼ばれるバイクであった。
「確かに……可愛い……」
「ピンク色ですし……何だか瀬名さんのイメージと合っているような気がします」
ピンク色と言っても派手な方の濃い色の物ではなく、桜のように優しい薄い色だ。
ライト、全身を構成する車体……シートなど、全体的に丸みを帯びたデザインは、その桜色のように優しい性格、瀬名さんの女子らしさが体現されて作られたようなスクーターであった。
「こういうバイクは可愛いだけじゃなくて、オシャレよね」
「良いぞひとみ。 これだけ女子なバイクに乗っていれば、走行中の男ライダーからの視線も独り占めであろうな」
「えええっ? べ、別にそうとは思ってないけど……可愛く見えてるなら、上手く選べたみたいで嬉しいのぜ、えへへっ」
……すると、先程から店内を徘徊していた瀬名さんに注目をしていた店員が声を掛けてきた。
宜しければそちらのバイクに跨ってみますか? ……そう聞かれて顔をぱぁぁっと明るくさせた瀬名さんは勿論オーケーを出して、マグナの時と同じく慣れない様子で足を上げてジョルノに跨った。
「えへへ……どうなのぜ?」
「大丈夫、似合ってるわよ」
「ふむ……正直マグナの時よりも、ひとみにはこういうスクーターの方が似合っているかもしれんぞ」
「飯田さんの言う性能面とは別に……瀬名さんの方は完全にビジュアル重視という感じでしょうか」
「とにかく……可愛い……」
「えへへ……ありがとうなのぜ」
「でも見た目だけじゃやっぱりダメよ、乗り心地とかの方はどうなの?」
「問題無いのぜ! 椅子の所は広くて座りやすいし……足もちゃんと地面に届いてるのぜ!」
「それぐらいは最低条件よ」
その喜びを表現するかの如く、瀬名さんはアクセルを捻ったりブレーキをカチャカチャと握っている。
そのバイクに乗りながら、ヘルメットを被って走っている瀬名さんの姿が容易に想像が出来る。
「……てか値段安過ぎない?」
「五万円……」
「本当だな……それなのに車体は綺麗であるし、何故ここまで安いのだ?」
「最早瀬名さんにお買い求め頂く為に売られていたようなバイクですね」
「えへへっ、あたい決めたのぜ! これに乗るのぜ!」
「ほう、もう迷いは無いわけね」
「うん!」
「おおおっ……」
そうして瀬名さんはそのジョルノを選び、ジョルノで道路を走る瀬名さんのイメージが現実の物となろうとしていた。
「しかし今すぐには買うつもりは無いのだろう?」
「そうなのぜな……免許を取ってから、またここに来て堂々と買いたいのぜ!」
「一応免許を取る前でもバイクは買えるわよ」
「えっ、そうなのぜ?……うーん、でも今は免許を取る事だけに集中したいかな」
「なるほど……」
原付を先に買ってしまう事で、もう免許を作らずにはいられなくする……そのような状況を作り出すつもりは、本人には無いようだ。
しかしそのバイクの為に今まで頑張ってきたのに、免許を取れて店にまた来た頃には既に売り切れ……その結末を迎えては本末転倒である。
……真緒さん達も瀬名さんの都合を考えつつ、俺と同じ事を思っているのか、素直に喜べないような微妙な表情を浮かべていた。
「……よし、それならば次は本屋だな」
「そうね」
「ん? 何しに行くのぜ?」
「免許を取るお勉強をする為の本を見に行くのよ」
「おお〜、いよいよなのぜな……」
「受験勉強とかよりは全然簡単だから、そんなに緊張しなくても大丈夫だぞ」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「学科試験は全部で五十問くらいあるマルバツ問題よ」
「おっ、それなら簡単そうなのぜな」
「しかし五問間違えただけで失格となってしまうのだ」
「えええっ!?」
「だから二択だってナメてると痛い目見るわよ、だから一冊丸覚えするぐらいの勢いでいかないと」
「がっ、頑張るのぜ……!」
……その後俺達は新宿駅に戻り、紀伊國屋書店にて瀬名さんの学科試験対策の為の本を購入しようとしていた。
しかしこう言った本は無数に存在する……それが並ぶ本棚の前で、瀬名さんは自身の頬を抑えながらどれを買うかに頭を悩ませていた。
「仁藤くんも……本を買って、勉強したの……?」
「俺はスマホで実際の試験問題を解くことが出来るアプリがあるので、それで間違えながら覚えました」
「楽したな」
「重いのぜ……これに書かれてあるやつ全部覚えるのぜ?」
「そんなに分厚く無くていいのよ。全部読み終えるまで何日かかると思ってんの、こういう薄いやつでいいの」
「おっ、軽いのぜ〜」
そうして飯田さんが広辞苑のような本を棚に戻している間に、瀬名さんはパラパラとその薄い本の中身を確認している。
「標識だけ覚えればいいと思ってたけど、全然そんな事無いのぜな……」
「当たり前よ、とりあえず数字が出てくる箇所は丸暗記ね」
「あと本番だと引っ掛け問題が多いから気をつけろ」
「例えばどんなのぜ?」
「原付は二人乗りしてる時は、二人ともヘルメットを被ってなきゃいけない……丸とバツどっちだと思う?」
「二人共被ってなきゃいけないんじゃないのぜ?」
「かかったな。まず原付は二人乗り自体が禁止だから、ヘルメットを被らせる以前に一人でしか乗る事が出来ないのだ」
「うう……騙されたのぜ……」
「そんなにガッカリしなくても、これから騙されないように知識をつけていけばいいのよ」
「うん……! 頑張るのぜ!」
「ならば早速買ってくるがいい」
「うん!」
そうしてその本を持ち、てってとレジの方へ駆け出して行った瀬名さん……
「あのジョルノ……買えるなら早めに買っておいた方が良さそうだな」
そんな彼女を見守りながら……ふと真緒さんはそのように呟いた。
「まぁあんな安くて綺麗な原付、他の女の子達が見逃す筈も無いわよね」
「……なら瀬名さんへ贈る誕生日プレゼントは、あのジョルノというのはどうでしょうか」
「私もそれ……考えてた……」
「皆で割り勘して買う感じだな」
「長内さん大丈夫なんですか?」
「うん……一万円ぐらいなら、払えるから……」
「結構あっさりと決まったな」
「なら売り切れる前にとっとと買っちゃいましょ」
「とりあえず、まずは瀬名さんと別れる事から先ですね……」
「……お待たせなのぜ!」
そうして瀬名さんのプレゼントが決まり、新たな作戦を考えていると……本が入ったレジ袋を提げた彼女が、我々の元に戻ってきた。
「はいおかえり、とりあえずゼストにでも行って早速お勉強でもしてみる?」
「うん!」
「そうだな、丁度小腹も空いてきていた所だ」
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「うーん……聞いた事無い言葉がいっぱいなのぜ……」
「もう読んでいるのかお前は」
「えへへ……着くまで待ちきれなくて」
「ひとみちゃん……勉強熱心……」
「ながらスマホしてる人は散々見てるけど、ながら本してる人は初めて見たわね……」
それからゼストに向かう途中……二宮金次郎のように本を読みながら歩いている瀬名さん。
そんな彼女が周囲とぶつからないよう、真緒さんは彼女の両肩を抑えながら、瀬名さんが真っ直ぐ進むよう上手くコントロールをしていた。
その頑張る瀬名さんを見て、改めてジョルノを贈りたいという我々の気持ちが強くなっていく。
「熱心なのはいいんだけどさ、実際に行くなら早起きしていかないとダメよ」
「ん? そうなのぜ?」
「免許センターで受付をする場合、午前中しかやっていないからな……平日でも人が多いだろうし、本当に早く起きなければならん」
「それは大丈夫なのぜ! 早起きなら慣れてるのぜな!」
「その受付をする時も色々と身分証とか必要だから……勉強出来たけど持ってなかったとか困るし、今の内に確認しておいた方がいいわよ」
「分かったのぜ!」
……そういえば瀬名さんは自分の家を持っていない。
その瀬名さんの身分証に書かれてある住所は、どこを指している物なのであろうか。
……そもそも瀬名さんは住所を持っているのか?
「……住民票ってなんなのぜ?」
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