第六章『聖宴』

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【真緒さんに話しかけるを選んだ場合】 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 「……起きてください」 「……」 勇気を振り絞って話しかけたのはいいものの、真緒さんはぴくりとも反応せずに、テーブルに項垂れてすーすーと寝息を立ててながら気持ち良さそうに寝ていた。 話し掛けて起きないのであれば、今度は彼女の体に触れたりして起こさなければいけなくなってしまう。 「……風邪をひいてしまいます」 真緒さんの肩に手を置き、彼女を現実世界へと引き摺り戻すように体を揺する。 「んぅ……」 しかし、彼女が肩に置かれていた俺の手を振り払った事で、体に手を触れて起こすプランBの作戦が中断されてしまった。 まるで今の真緒さんは、朝に部屋まで起こしに来た母親からの攻撃を諸共せずに寝続けている子供のような態度だ。 とにかくプランBの作戦は失敗に終わった。 次はどのような手段を行使して彼女を起こそうか。 ……胸でも揉めば流石に起きるだろうか? その最低な考えを思い浮かべていたその時、真緒さんの体がぴくりと動いた。 「んぅ……?」 真緒さんは体を起こすと、寝ぼけているような顔をしてキョロキョロと辺りを見回していた。 首を曲げている間で目が合い、真緒さんは真紅の細い半開きの瞳で俺を見つめてきた。 「……仁藤か」 「おはようございます」 「そうか……私は、寝てしまっていたのだな」 天井に向かって片腕を上げる事で、真緒さんは全身で伸びをしている。 いつの間にか寝ていた事に気がついていないぐらいにお酒を飲んだという事なのだろうか。 頭を抑えながら席から立った彼女は、バランスを崩して倒れそうになっているレベルまで酔っていた。 「っと……大丈夫ですか?」 彼女が地面に叩きつけられる前に、真緒さんの前から肩と腰を抑えてそれを阻止する。 「お顔が真っ赤です……」 「大丈夫さ……というよりもむしろいい気分だ。 ふふっ」 「……本当でしょうか」 眠たそうに目を細め、顔を真っ赤にして俺の胸に手を当てている真緒さんから妖艶のピンク色なオーラを感じる。 聖夜の気分に外の者達も浮かれており、このまま独りで帰らせれば、男の集団に誘拐でもされて性的暴行をされるような事態になりかねない。 独りで帰らせて後で後悔をするよりは……ここは本人に断られても、真緒さんをお家まで送っていくべきであろう。 「歩けますか?」 「どこを触っているのだ貴様〜、それにどこに行くつもりだー」 「パーティーが終わったので、帰るのですよ」 じたばたと力無く動いている真緒さんと肩を組みながら出口へと向かおうとした時、起床した真緒さんの様子を見る為に、彼女の周りに皆が集まってきた。 「まおまお、本当に酔っ払ってるのぜな〜」 「お酒弱い癖に、カッコつけて飲みすぎるからこうなんのよ」 「カッコつけてなどおらぬわ……ひっく」 「今日……お家、帰れるの……?」 「おえー……」 「大丈夫ですよ、俺がお家までお送りするので」 ブルヘッドさんの背中を摩っている長内さんから、真緒さんへと投げかけられた質問に対して、俺が答えた事で武蔵さんは腰に手を当てながらこう口にした。 「おっ、真緒ちゃんのボディガードかい? 一緒に帰るのはいいけど、今日はよくパトカーを見るから気をつけるんだよ?」 「……大丈夫です」 武蔵さんからの忠告に、頷く事で問題無いという意志を示す。 真緒さんのボディガードを務めるからには、必ず真緒さんをお家まで送り届けなければならない……俺がついていながら、何かトラブルに巻き込まれてしまうのは以ての外だ。 「では俺達はお先に失礼します。 お疲れ様でした」 「さらばだ皆の者、はっはっはー!」 「真緒さん、耳元で叫ばないでください……」 「ばいばいなのぜ〜!」 「本当に気をつけんのよー」 俺の肩に手を組み、真緒さんはもう片方の手で彼女達に大きく手を振って別れを告げた。 そうして黒百合の外に出た事で、俺による真緒さんを安全にアパートまで運び届ける重大な任務の幕が上がったのであった。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ いつものように……それどころか例日の倍以上もの人が歩いている。 「おい、そろそろ離さんか〜」 「平気ですか?」 「ああー」 そう返事をすると、真緒さんは俺の肩から手を離して前を歩いた。 俺達を後ろから抜かしてきた男性のマフラーが解けそうになる程の強い寒風が吹き続ける中、それが真緒さんの酔いを少しでも冷ましてくれたのだろうか。 「……ひっく」 だが依然として顔は赤く、まともに歩けるようになったのはいいものの、まだまだ彼女にはアルコールが纏わりついていたようだ。 「ぎゃはははっ……」 ……スーツを着た柄の悪そうな男達三人が前からやって来ている。 三人は道のど真ん中を歩き、会話に夢中で前方にいる俺達の事など気にも止めていない様子だ。 そして真緒さんは奴らと平行の位置で歩き、下を俯いている。 このままではぶつかってしまう。 ……そう思った時には既に遅かった。 「っつ」 「!」 真緒さんと先頭にいた男の肩がぶつかり合う。 「おいてめぇどこ見てんだおらぁ!」 「……あ?」 ぶつかり合い、互いに振り返って睨み合いが始まる……。 男達の方は勿論……本来なら謝るべき真緒さんも、接触した男と額がぶつかってしまいそうな程に近付き、反抗的な態度を見せていた。 「何ですかその目は?」 「おい、こいつよく見たら女だぞ」 「お嬢ちゃん、ちょっと俺達とお話しようか」 「す、すみません……」 絶対に謝らない真緒さん……そんな彼女の代わりに、俺が間に入って男達に謝ろうとする。 男の手が、真緒さんの肩にぽんと置かれる。 そのままホテルなどに拉致されてしまうのかと思いきや…… 「はぁっ!? いててっ……!」 「その汚らわしい手で私に触れるな」 真緒さんは肩に置かれた腕を掴んだまま、背中に回って腕を背中に押さえつけた。 酔っ払っても尚、かつての違法サイトのアジトでも見せつけた強さは健在のようだ。 「てめぇ……!」 当然男二人も、その者を助ける為に真緒さんに攻撃を与えようとする。 だが真緒さんは殴りかかられる前に、腕を押さえつけている男を盾にして攻撃を防ごうとした。 「んふふ……いいのか? 私に勝負を挑むのはいいが、その前にこの男の腕を折ってしまうぞ?」 「くっ、てめえ……!」 「……がああっ!ごめんなさいごめんなさい!」 「ふんっ、分かったらとっとと失せんか」 「チッ、早く行こうぜ……」 そうして真緒さんの腕の鎖から解放された男は、他の二人と共にその場から去って行った……。 ……態々拷問をするよりも、警察手帳などを見せれば一発で退散をしそうなものだったが。 「あの方達もそうですが、真緒さんも前を見て歩きましょう」 「ああ……気をつけよう」 酔っ払って隙を見せてしまっているように思えるが、それでも真緒さんは歌舞伎町の男達に負けないぐらいの強さを持っている警察であった。 それから靖国通りに沿って、真緒さん宅に近付いて行く途中…… 「……」 「真緒さん!?」 ……突如道路端に捨てられているゴミの山に、ふらふらと向かって倒れてしまった真緒さん。 「大丈夫ですか……?」 「んー……大丈夫と言っているぅ、私は酔っ払ってなどいないぞ」 「そう言う方に限って、絶対に酔っ払っているんです」 「んー……この私が酒などに負けるかぁ」 「立てますか?」 真緒さんを立たせて、再度歩行の補助をしようとする。 しかし真緒さんは俺の肩からするりと手を滑らせて、そのままぺたんと地面に座り込んでしまった。 「足に力が入らん……もう歩けないぃ」 「真緒さん……」 子供のような口調、ゴミの山に寝転んで駄々をこねる姿……素面の時には考えられない真緒さんの姿だ。 「仁藤、私を運べ……お前自身が、私を家まで運ぶタクシーとなるのだ。ふふふっ……」 挙句の果てには、俺の腕を掴んで地べたから見上げながら……最早自分で歩く気は無いと宣言をする始末だ。 やはり酒は人を変える……しかし幸いにも、酔っ払いの扱いは慣れている。 事務所やホテルで夜の斬江に会う時も、よく泥酔状態で絡まれているからだ。 「……仕方がないですね。 真緒さん、俺の背中に乗ってください」 「うむ、では失礼するぞ」 真緒さんをおぶると共に、胸の感触と良い匂いが……と思いきや、今の真緒さんは残念ながら酒の臭いしか帯びていない。 「……真緒さん、やっぱり飲みすぎです。 お酒臭いです」 「そんな事は無いぞぉ、本当は私がおぶれて嬉しいと思っているのだろう? スケベな奴め」 「抱きつかないでください……歩きにくいです……」 しかも今は酒の臭いだけではなく、先程のゴミの臭いも追加されてしまっている……この上なく最悪だが、あの時ゴミがクッションになってくれて、真緒さんがケガをしなかった事だけが唯一の救いか。 「ほら遅いぞ〜、もっと早く歩かんか」 「それだけ元気があるなら、自分で歩いたらどうなんですか?」 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ……それから何とか真緒さんの住んでいるアパートには到着する事が出来た。 ……しかし、彼女の部屋は二階にある。 「ふぅ……ふぅ……」 「頑張れ〜」 すっかり女王様気分の真緒さんは、やはり自力で歩く気が無い……階段を登っている間でも、真緒さんはずっと俺におぶられていた。 こうなれば部屋の扉が開くまでは絶対に地面は踏まないという挑発か? 「……鍵を貸してください」 「ほれ」 「……ありがとうございます」 真緒さんから鍵を預かって、それで鍵を開けて中に入る…… ……そうして真緒さんを玄関に下ろした事により、漸く彼女のボディガードと搬送から解放された。 「ご苦労だったな仁藤……ありがとう……」 「いえ……」 「……ふぅ」 それから真緒さんは靴を脱いで、ふらふらと廊下を抜けて部屋の方へと向かった。 ……そしてすぐ様、彼女はエネルギーを使い果たしたかの如く、ソファにぼすんと倒れ込んだ。 そのまま仰向けになり……真緒さんは具合が悪そうに、手の甲を額に当てながら天井を見上げていた。 ……許可はされてないが、真緒さんの様態を確認するべく、俺も部屋へと上がる。 「……大丈夫ですか?」 「……頭が痛くなってきた」 「でしょうね」 「もう……本当に動けん……」 「今日はこのままお休みになりますか?」 「そうしたい所ではあるが……風呂だけは絶対に入らなければ、体が臭くて敵わん」 「その前に、まずはお水ですよ」 真緒さんが座りながら頭を抱えている一方で……すかさずキッチンへと向かい、コップに水を注いで真緒さんに渡す。 「ありがとう……ついでに悪いのだが、風呂の水も溜めてきて貰えるか?」 「お風呂にも浸かるのですか? 熱いお湯に浸かると、今よりも更に酔いが回ってしまいますよ」 「別に熱い状態で入るとは言って無かろう、温いぐらいで沸かしてきてもらえれば大丈夫だ……頼んだ」 「あっ、すみません……分かりました」 そうして真緒さんが水を飲んでいる間に、俺は廊下に出て風呂場へと向かう。 言われた通りに蛇口を捻り、浴槽に水を溜めていく……温めに沸かすのであれば、三十五度ぐらいで大丈夫だろうか……。 ひとまずその温度で設定し、給湯器からあたため開始のボタンを押して、部屋へと戻る……。 「……むっ?」 そして部屋の方では、真緒さんはいつの間にかワイシャツと下着姿だけになっており、刻々と風呂に入る準備を進めていた。 ワイシャツを脱ごうとしていた真緒さんの、白いブラジャーとパンツのレース模様をしっかりと目撃してしまうも、すかさず扉を閉める……。 「……えっ? あっ、すみません!」 「貴様……ノックをせずに入ってくるとはいい度胸だ、ここは一応女の部屋なのだぞ?」 「すみません……」 「……風呂は沸かしてくれたか?」 「はい……今温めている最中です」 「悪いな……後は、今いる私の位置とお前の位置を交換するだけだな」 「そうですね……どうしましょうか」 「お前はトイレに入っていろ、私が良いと言うまでに出てくるんじゃないぞ」 「……分かりました」 それからトイレに避難して、真緒さんが風呂に移動するまでの時間を稼ぐ。 真緒さんの足音が部屋から風呂場へと流れていく……そして洗濯機の中に服を放り込むような音がした後、風呂場の扉が閉まる音がした。 「……良いぞ」 そして真緒さんから許可を貰い、廊下へと出る…… 誰もいなくなったその場所と部屋……だが風呂の扉の網ガラスの向こうには、微かに真緒さんのシルエットが見える。 ここにあまりいてはいけない気がする……真緒さんが全裸で出てきても良いスペースを確保する為にも、俺は玄関に向かおうとした。 「……仁藤、まだそこにいるか?」 「……はい」 ふと風呂場から俺を呼ぶ真緒さんの響いた声が聞こえてきた。 その方へと背中を向けたまま、俺は返事をする。 「今日は色々と世話になってしまったな……すまない」 「いえ、あの状態で黒百合に帰るのは無理そうだと、放っておけなかっただけです」 「今思えば色々と恥ずかしい姿を晒してしまったような……その時の事は忘れてくれ」 「気にしていないので大丈夫ですよ」 「……その、折角のクリスマスなのだ」 「仁藤さえ良ければ、暫くゆっくりしていかないか?……先の礼として、それなりの対応はさせて貰うぞ」 折角のクリスマスだからこそ、独りで過ごすのは寂しいという事か……その誘い方は、どことなく哀愁が漂っていた。 このまま顔を見せずに帰ってしまうのも感じが悪いであろう……俺はそっと向きを変えて、扉がまだ開く気配が無い事を感じると部屋へと戻った。 「……では、お言葉に甘えさせて頂きます」 「うむ、すぐに出るから待っていてくれ」 「いえ……俺の事はお気になさらずごゆっくり……」 ソファに座り、適当に時間を潰す為にスマホを取り出す。 ふとソファから先程のゴミの臭いがした……真緒さんが寝転んだ時に移ってしまったものであろう。 テーブルの上に置いてあったファブリーズで、その場所を吹きかけておこう。 「ふぅ……待たせたな」 暫くして真緒さんが帰ってきた。 思えば初めて見る真緒さんの部屋着……その姿は紺色のパジャマという、いつもの中性的な要素を感じさせる服装だ。 「大丈夫です……体調の方は如何ですか?」 「最初よりは楽になった、まだ少し頭は痛いが……後は寝るだけだし、寛いでいればその内体調も治るさ」 「良かったです」 そうしてふぅとため息をつきながら、真緒さんは俺の隣に腰掛けてきた。 ほんのり酒の匂いがするが、ゴミの臭いは風呂上がりの石鹸の匂いで、すっかりと上書きされていた。 「……酔いの方はどうですか?」 「まだ酔っ払っているかもな……しかしまた気分が良くなってきたぞ、私の身体も温かいであろう?」 「ま、真緒さん?」 「ふふふっ」 そうして真緒さんは俺に甘えるように腕を絡ませて抱きしめてきた。 その姿は正しくマタタビに酔っている猫そのものだ。 「にとう〜」 「……なるほど、まだかなり酔っている訳ですね」 「にとう〜?」 「……聞こえていますよ」 「ふふふっ」 俺の名前を何回も呼び、頬や身体に触れたりして、からかい気味になってきた真緒さん。 酒に呑まれた歳上の女性に翻弄されるのは、母親、斬江……そして真緒さんが三人目である。 「……」 突如静寂が訪れる部屋の中……俺達は二人で、秒針を刻む音を出し続ける時計を見上げた。 「……まだ二十三時過ぎか」 「……そうですね、まだクリスマスになっていないです」 「今頃サンタさんがいようものなら、子供達にプレゼントを届けている最中だという事か」 「おっ……真緒さん、意外とメルヘンな所もありますね」 「その言い方だと、何だか私の頭が悪いように聞こえるのだが?」 「いえ……想像力が豊かだと、お伝えしたかっただけです」 「ふっ……なるほどな」 「そのサンタさんからプレゼントが貰えるとしたら……真緒さんは何が欲しいですか?」 「プレゼントか? ふむ……」 ソファの上で胡座をかいたまま、俺に寄りかかって考えている仕草を見せる真緒さん。 「私は……もう一度青春が欲しいかもしれん」 「……青春、ですか?」 「ああ、私が通っていた小中高は、どれも女子しかいない学校だったのだ」 「女子校……と言うものですね」 「なので学校に男がいなければ、彼氏も出来た事など無い……可能ならば、今からでも共学の学校に入学して、普通の女子学生の青春を送ってみたいものだ」 「恋人が欲しかった……という事ですか?」 「ん? 恋人ならいたぞ?」 「えっ?」 「相手は女だったがな」 「ええっ!?」 新たな新事実に対して、深夜にも関わらず思わず声を上げてしまった。 真緒さんは首を傾げながら、何かおかしな事でと言ったか?と疑問を思っているかのようにきょとんとしていた。 「私自身、相手が男でも女でもいけるタチだからな」 「学校に女子しかいなくて恋愛をしたければ……必然的に女と交際するしか無くなるという事だ」 「そういうものなのでしょうか……」 「そういうものなのだ」 飯田さんや長内さんや瀬名さんにも、時々ボディタッチをしたり、警察らしからぬ胸を揉んだりなどをした事もあったが……まさか本当にそういう属性を持っていたとは。 「だが思春期の女という奴は、春の天気並みに気まぐれでな」 「やはり女同士よりも、男と付き合う普通の恋愛の方が良かったのか……相手は私に飽きて、男に浮気をするようになってしまったよ」 「そんな事が……」 「男とも女ともどちらとも付き合う事が出来る……そうとは言っても、私自身男と付き合った事は一度も無くてな」 「そうなんですか?」 「ああ……バイセクシャルだと恋愛経験が豊富のように聞こえるが、決してそうでは無い」 「女子学校に通いながら、彼氏を作る方法は知らなかったし……その者に裏切られるくらいなら、普通の学校に通って普通の青春を送りたかった物だ」 「しかし……よくその相手は浮気が出来ましたね、相手は極道の娘であるのに」 「その事は友人にも隠していたさ、告白すれば怖がられるだけだしな……だから誰も一度として実家に連れてきた事は無かった」 「それもそうですよね……失言でした、すみません」 「別にいいさ、もう過ぎた事だ……しかしそれだと、男の方にもいつかは告白をしなければならなかったという事で、学生時代は男と付き合うのも不可能だったかもしれんな」 「……好きになってしまうと、思わずその事を話してしまいそうですね」 「とにかく深くまでは考えていないさ……恋愛をするにしてもしないにしても、共学の学校に通ってみたかった。 それだけだ」 「……お父様自体、恋愛に厳しい面もあったしな。彼氏が出来ようものなら、真っ先に家に連れて来いとよく言っていたものだ」 「真緒さんの事を、心配されていたのですよ」 「ただの親バカなだけさ」 真緒さんのお父様とは……つまり帝組組長、帝真の事。 彼は真緒さんに、無理して極道の道を歩む事を押し付けたりせず、警察の道に進む事も否定する事はせず、色々と優しい面がある。 これは斬江から教えて貰った事なのだが、真の妻、真緒さんの母親は……真緒さんを産んだ直後に亡くなっているらしい。 つまり真にとって、真緒さんは血の繋がっているたった一人の本当の家族……そうともなれば、あらゆる場面で心配をしてしまうのは分かる気がする。 真緒さん側も極道の親を持つ者とは言えど、本当の親にそれだけ愛して貰えて……実に羨ましい限りである。 「それならば……俺が真緒さんとお会いしていて大丈夫なのですか?」 「何を今更……前にも言ったであろう? この家に誰を上げるかは私の自由だと、それならば誰に会うのかも私の自由だという事だ」 「お父様も、私が皇組にいる男とよく会っているのは知っているが……お前は何も心配しなくて良い」 「は、はあ……」 「それよりもお前……その事を心配しているという事は、私の事を狙っているという事か?」 「えっ?」 真緒さんはそう言いながら、今も密着している身体を更に押し付けてきた。 「どうなんだ? ん?」 「ちょっと……苦しいですよ……」 どういう方程式を辿ったら、そういう理論になるのか……これも酒の影響により、真緒さんの恋愛方式に異常が出てしまっているという事か。 真緒さんと会う度に、歳上の包容力にいつも落ち着かされているというのは事実だ……変に否定をしてしまっては、今度は真緒さんに私の事が嫌いなのかと思わせてしまうかもしれない。 「……」 「何を考えている……早く答えるがいい」 「えっ、ちょっ……」 そうして待ちきれなくなった真緒さんは、今度は俺の上に覆いかぶさってきた。 真緒さんの体重、真緒さんの体温……そして真緒さんの匂いが、俺の全身を覆い尽くす。 「どいてください、重いです……やはりお風呂に入って、ますます酔いが回ってしまったのでは無いですか?」 「ふふふっ……相変わらず気分はいいからそうでは無いぞ」 「……狙ってはいませんが、このままずっと親密な関係でいたい……とは思っています」 「ほう……?」 「真緒さんといると……その、本当のお姉さんといるようで安心するので」 「ほう……」 真緒さんは俺からの言葉を聞くと、一瞬驚くような反応を見せた後に、そっと俺から離れてソファに座り直した。 「そうか……仁藤は、私の事をそうだと思っていてくれたのだな」 「……言ってみると、結構恥ずかしい台詞でした」 「……私も、お前の事は弟のような存在だと思っているな」 「えっ? そうだったのですか?」 「うむ、見ていると何だか頭を撫でたくなるような……可愛がってあげたくなるような……そんな感じだ」 「語彙力放棄してますよ」 「……度々歳上である私を煽ってくるような、生意気な所があるがな」 「っ、やめてください……」 俺の胸に指をねじ込ませるようにして、ぐりぐりと押し込んできている真緒さん。 「でも嬉しいよ……」 指を胸から離すと、真緒さんは本当に嬉しそうな表情を浮かべたまま手を組んで、再度正面の方を向いた。 「……何がですか?」 「極道の娘だから、敵組の組長の娘だからと言って怯える事も無く……それだけフランクに接してくれているという事だろう?」 「変に気を遣われたり、私の機嫌を取るような態度で接して貰うよりかはずっと良い」 「そうですか……」 「正直言って、同年代の男がどういう生き物なのかは分からなかったが……初めての男の友人がお前で良かったよ、ありがとう仁藤」 「そんな……こんな俺とでも仲良くしてくださって、お礼を言うのはむしろこちらの方です」 ……そう言われてしまうと、真緒さんにとって俺との関係は特別な物だというふうに思い込んでしまう。 俺自身、新宿は歌舞伎町で生き続ける真緒さんの背中を追い続けていたから、今まで頑張れた点もある。 極道と一応金持ちである実家には頼らず、一人で生きて行こうとする彼女の生き様は……羨ましいかつ、俺も頑張ろうと鼓舞されるような生き方であった。 「……もうこんな時間か」 「そうですね……」 ……再び時計を見ている真緒さんに合わせて、俺もまたその方向を見る。 時刻は二十四時過ぎ……真緒さんの部屋で過ごしている内に、いつの間にかクリスマスに突入していた。 「メリークリスマスだ、仁藤よ」 「メリークリスマスです……クリスマスって、こんな感じに挨拶をする行事でしたっけ」 「ふむ、細かい事は気にするな……それよりもお前、出て行けと言っている訳では無いのだが、帰らなくて大丈夫なのか?」 「はい、大丈夫です……今日一日、親からは自由にしていいと言われているので」 「ほう、姐さんがそんな事を……それならば、頼みがあるのだが……」 「はい……?」 「……今夜はこのまま、勿論仁藤さえ良ければ、私と一緒にいて貰えないだろうか」 「……」 口元を緩めながら頬も染め、もじもじとしながらそう口にした真緒さん。 その色々と勘違いさせられてしまう様子を見て、その時の心臓の鼓動を心電図で表すなら、とくんと大きな一波が流れたのを感じた。 ……しかし真緒さんは一人暮らし、単に独りで始まったばかりのクリスマスを過ごすのが寂しいだけなのかもしれない。 「……良いですよ。こちらこそ俺で良ければ、このまま真緒さんのクリスマスにお供させて頂きます」 「本当か!」 目と口を開き、ぱああっと明るい表情を浮かべる真緒さん。 そんな分かりやすいリアクションを取った彼女と過ごす夜……例え無理でも何かイベントが起きるかもしれないと思うと、まだ先程の衝撃で心臓の鼓動が早くなっている。 「その……泊まりという事で大丈夫だったか?」 「はい、お世話になります」 「うむ、この後は風呂でも何でも好きに使うと良い……寝る時のポジションなどは、後で考えれば良かろう」 「……分かりました」 「……そうだ。ではお姉さんから、お前に何かクリスマスプレゼントをくれてやろう」 「えっ……何か頂けるのですか?」 「うむ、何が良いだろうか……」 突如そう提案すると……再度胡座をかいて以下略、考える仕草を見せる真緒さん。 今度は何も思いつかないのか、難しい顔をする程に、真緒さんの身体がソファのシートへと傾いていく。 「……すまない仁藤。 前々からプレゼントを用意していなかった手前、お前にあげる物は何も無いし思いつかん」 「別に無理して用意されなくても大丈夫ですよ……」 「……別に物で無くても良いか」 「……と、言いますと?」 「よし仁藤、今からお前に私のおっぱいを見せてやる」 「ええ……?」 そう言って真緒さん自身が持ち上げた、パジャマという名の二つの袋に包まれた胸に、自然と注目してしまう。 真緒さんはふふっと笑いながら、俺が驚いているリアクションを楽しんでいるようだった。 「真緒さん、本当に相当酔っていますね……今の台詞、素面に戻った時に言った事を後悔するパターンですよ……」 「胸を見せるのは私自身の意志だから、全く問題は無い……これでも、よく考えて言葉を話しているつもりだ」 「本当ですかね……」 酔っているようでしっかりとしているという事を、言葉でアピールした真緒さん……しかしその直後にヒックと吃逆してしまった事で、何もかも台無しだ。 「後はお前自身が見たいかどうかという訳だ……男という生き者は、皆女の胸が好きな者達では無いのか?」 「……まぁ嫌いな方はいないと思いますが」 「……それとも、折角見せてやると言っているのに、私の胸が見れないと言うのか?」 「それは……」 まるで私の酒が飲めないのかと、同じような事を言い出した真緒さん……これはアルハラでは無く、分かりやすいセクハラな訳だが。 先程から酒の力で気が大きくなっており、ニヤニヤとしている真緒さんは、どうやら俺を挑発したいらしい…… しかし俺も童貞では無い……ここで変に動揺を見せたら、こちらの負けという事だ。 「……良いですよ。 そこまで俺に胸を見せたいのであれば、お言葉に甘えさせて頂きます」 「その言い方だと、私が一方的に胸を晒す痴女みたいでは無いか……お前の方が、私の胸を見たいという事で仕方無く見せてやるのだ」 「そのような事は一言も……はぁ、分かりました。 見たいです……真緒さんのおっぱい、見せて下さい」 「ふふっ、それならそうと早く言えば良いのだ」 それからパジャマのボタンを下から上へと外していく真緒さん…… ここで彼女の肌が露わになっていく様を、慌ててつつも凝視をしてしまっては真緒さんの思うツボだ。 チラッと見る程度で……基本は気にしていないようなフリをしてそっぽを向いていれば良かろう。 「さて……脱いだぞ」 そうして真緒さんはボタンを外して、肩も露出させるも袖の方は着たままで、脱ぎかけの状態で白いブラジャーに包まれた二つの乳房を差し出してきた。 「……」 「ふふっ、どうだ私の胸は」 「……」 「なっ……何か答えないか」 しかし、酒の力を持ってしても、やはり男に下着を見せるという行為は恥ずかしいのか……酔っ払っているのでは無く、恐らく恥ずかしいからという理由で真緒さんの頬が染まっていく。 「……真緒さんってお肌が白くてお綺麗ですよね」 「……むっ、そうか?」 「はい……そしてブラジャーも白いので、お肌と完全に同化しているように見えます」 「うっ、うむ……そこまで冷静に分析されると照れるのだが……」 「まぁ真緒さんの下着姿なら先程も見ましたけどね」 「それは貴様がノックもせずに勝手に部屋に入ってきたからであろうっ!」 「……すみません」 警察という常に心も体も鍛えていなければ続けられなさそうな職業に就いている為か、真緒さんの体はプロポーションが整っている。 「むっ……どこを見ているのだ?」 「……あっ、お腹です。身が引き締まってると思って……少し腹筋も割れていますよね」 「ふふっ、撫でてみるか?」 「良いんですか?」 「ああ」 「では失礼して……」 「っ……」 「あっ、すみません……」 あまりにも慎重に触れたせいで、真緒さんの身体が擽ったいとピクっと反応する。 鍛えられた身体と言っても、完全にゴツゴツとしている訳では無い。 女性らしく肉付きのある要素もあり……真緒さんのお腹は凹んでいても柔らかく、さらさらとしていて手触りの良い素肌であった。 「……ありがとうございました」 「うむ……腹もいいが、それよりももっと注目すべき箇所があるだろう」 「……おっぱいですか?」 「そうだ……まだ胸に対しての感想を聞いていないのだが……」 そうして再び胸の方を見る。 別に避けている訳では無い……ただ偶然お腹の方に目線が行ってしまっただけで。 ……しかし、お胸に関しては肌と合わせて綺麗だなと言ってしまった。 俺の語彙力の少なさもあるのだが……もうそれ以外の言葉が出てこない。 「……大きい、ですよね」 「うむ……これを見て、興奮とかはするのか?」 「……します」 「おお……仁藤は、胸の大きい女性は好きか?」 「……一応は、好きですよ」 「一応?」 しかしブラジャーまで見てしまったら……強欲にも、その中身まで見たくなってしまうもの。 「はい……自分は女性の胸の大きさよりも、形を重視するタイプなので……胸が大きくても小さくても、形さえ良ければ大きさは問いません」 「なので正直に言ってしまうと……真緒さんのお胸の大きさよりは、形の方を評価したいのです」 「……」 あくまで受け身を貫いていくつもりだったのき、結構語りすぎてしまったと思った刹那……真緒さんの顔が厳しくなると共に頬が染まっていく。 「つまり貴様……私の胸を生で見たいという事なのか?」 「……そういう事になってしまいますが、勿論無理をなさるまで見せて頂く必要はありません」 「別に最初から無理などしてはおらぬが……ではこういう取引にしよう」 「……?」 「私ばかりが一方的に見せていくのは不公平だ……私の胸は、一応生では見せてやる」 「……ほう」 「その代わり……お前の……ちっ……」 「……ち?」 「ち……ちんちんを……見せてもらうぞ……」 「……そうきましたか」 流石にお酒の力だけでは自信を補えなくなったのか、下を俯いて耳を澄まさなければ聞き取れないぐらいに小声でそう呟いた真緒さん……。 互いの合意の上、互いで見せて羞恥心を抱けば……一応はフェアという事になるのか? 「分かりました……見せましょう……」 「う、うむ……取引成立だな……」 「……それで、どちらから先に見せますか?」 「……私は既に見せたのでな、お前のを先に見せて貰おうか」 「……分かりました」 女性は男性に対して下着、胸……そして生殖器と、男性に性的興奮を覚えさせる部位を沢山持ち合わせている。 しかし男性が女性に対して、性的興奮を誘うような部位を持っているのは恐らく生殖器のみ……実に不公平である。 「……いいですか?」 「……いいぞ」 そして真緒さんはいつの間にかソファの下に降りて俺の前でしゃがみ、俺のを観察しやすい位置に移動していた。 真緒さんは依然として下着姿を晒したままだ……それに反応していないか確認するついでに、真緒さんの前でズボンとパンツを降ろした。 「……はい」 「おお……」 ここまで流れに任せて事を進めてきたが、中々人前では見せないものを、異性の前で見せた。 ……見せてしまった。 しかし下着姿を晒して、これから生まで胸を見せようとする真緒さんも、同じ気持ちを抱く事だろう。 「なんと面妖な……」 真緒さんは両手で口を抑えて驚きの反応を見せるも……頬を染めながらしっかりと観察していた。 「真緒さん……お顔が近いです」 「ああ、すまん……初めて見るのでな」 「そうなんですか?」 「うむ……彼氏が出来なければ、当然男の下半身など見る事も無い」 「唯一見たのは、幼い時にお父様と一緒に風呂に入った時ぐらいか……とにかく、見るのは初めなようなものだ」 「親父もお前と同じような形をしていたな……お前ももう、子供では無いという事か」 「……照れますね」 「……何か少しずつ大きくなってきていないか?」 「……気の所為ですよ」 「ふむ……」 俺だけでは無くモノの方にも見せつけてくるように、胸を持ち上げて突き出す真緒さん。 「……裸同然の格好をしている真緒さんが目の前にいて、反応をしない訳がないという事です」 「そうか……ではこれならどうだ?」 「!」 それから真緒さんもブラジャーを外して……その中身を、俺の前に晒し出てきた。 乳輪が少し大きめな上向きな乳頭を支える、形の良い二房……そして白い肌と桜色のコントラストが、俺の興奮を助長させる。 「……それでどうだ、改めて私の胸を見た感想は」 そして真緒さんが手を組みながらブラジャーを太ももに置いた事で、胸が真ん中へと寄せられた分少しだけ形を変える。 「やはり大きいです……そして何よりも形も、乳首の方も、全て綺麗です」 「……そこまで細かく説明しなくても良い」 恥ずかしさを体で示すように、ぷいっとそっぽを向く真緒さん……。 しかしその視線は……依然として俺の下半身の方に注目していた。 「!……お前、いつの間にそんなに大きくしていたのか」 「……えっ、ああ」 そして今の状況に、真緒さんは再び正面を向いた。 俺も真緒さんの胸を凝視していたので、自分の体の状態に気が付かなかった。 ……下半身に力を入れる事で、先端が硬化している事が分かる。 それはすっかりと肉棒と化して、生殖行動を行う為の準備を完了させてしまった事により……俺は真緒さんの胸を見て興奮したのだと言う事を、身体により証明してしまった。 「そうか……勃起するとこうなるのだな……」 「はい……」 「何だか……とても苦しそうだ」 「……触ってみてもいいですよ」 「本当か……?」 「はい……どうぞお気に召すままに」 「……」 そうして生唾をごくりと飲み込み、いざ俺の肉棒に恐る恐ると手を近づかせていく真緒さん……。 ……しかしあと少しで指先が触れようとしていた所で、真緒さんは手をピタッと止めた。 「……すまん、一旦中止させても良いか?」 「あっ、はい」 「うむ……」 次の瞬間パジャマをちゃんと着て胸を隠し、俺の隣に座り直した真緒さん…… ……俺もそれに合わせて、はっと我に帰るようにパンツとズボンを上げる。 「……どうかされましたか?」 「変な所で止めてしまって申し訳ない……だがこうまでしないと、あのまま事が進んでいた場合何処で止めたらいいか分からなかったからな」 「ああ、すみません……」 「……こういう事は、一度よく話し合っておいた方が良い」 現段階で、俺達は軽い気持ちで互いの恥所を見せてしまっている……真緒さんはこのまま触れる段階まで行ってしまったら、もう後戻りが出来なくなると思い中止をさせたのだろう。 もし中止をせずに最後まで進めてしまっていたら……最悪の場合、真緒さんの中に残るのは後悔だけだ。 「俺的には……あのまま真緒さんの任意で触れても触れなくても、そのまま終わりにするつもりでした」 「本当か……? お前……本当は私の胸の方も触ってみたりしたいのでは無いか?」 「それは……」 「仁藤にとって私の魅力が無かったり、そもそも私の胸に興味が無かったら何も言い返せないのだが……お前、何か我慢をしていないか?」 「……興味が無いのであれば、最初から見せて欲しいという事も言ってないです」 「興味があるのか無いのかを聞いているのではない……私はお前が我慢をしているか、していないのかを聞いているのだが」 「……」 真緒さんは胸を露出させないようにパジャマ閉めているが……その分先端が浮き出てしまったりしていて隠し切れていない。 その光景を見せられながら、我慢をしていない前提で話を進められるのは正直酷なものだ。 「……我慢、していますよ。 当たり前です」 「ほう……?」 「もし我慢をしなければ……俺の欲望が満たされても、真緒さんが一方的に傷付くだけです」 「……」 「真緒さんの事は好きですから……嫌われたく、無いですから……」 「ふむ……」 頬をポリポリとかいて、俺からの言葉を恥じらいながら受け取る真緒さん…… 思わず軽く告白している台詞を漏らしてしまったが……彼女は満更でも無さそうだった。 「……俺も、今度は真緒さんのお気持ちをお聞きしたいです」 「……私のか?」 「はい……真緒さんの場合、どこで止めるつもりだったのか……とかですかね」 「私は……もしここで止めなかったら、最後までしてしまうものなのかと思っていた」 「……!」 「私は、その……処女なのでな……」 「普通の恋人同士であると……どういう流れで本番まで持っていくのかは分からないが……」 「仁藤も私に興奮をしてくれているという事は……本当は私と最後まで、してみたいという事なのであろう……?」 「……」 「正直に、話してもいいぞ……この際気遣いは無しだ」 俺が真緒さんの胸を見ている一方で……真緒さんもズボンを履いていても分かる、俺の今も尚膨らんでいる下半身に注目をしていた。 いつもは自尊心が高い真緒さん……しかし今回に至っては、自信が無さそうに俺の気持ちを代言していた。 「……勿論、出来るならそうしたいです」 「うむ……」 「俺の方は……とにかく準備は万端なので、嫌なのであれば当然断って頂いて大丈夫なのですが」 「……」 「……後は真緒さんの、お返事次第という事になります」 本当にしちゃうの……? と怯えるような目で、こちらを見ている真緒さんと目が合う。 そして真緒さんは軽く深呼吸をして、下を俯いて暫く考える様子を見せた後……その答えを導き出した。 「良いぞ……しても……というよりもむしろ、してみたいという気持ちもあるかもしれん……」 「興味本位では絶対やらない方がいいです……本来こういう事は、本当に好きな人とした方がいいに決まっていますから」 「良いのだ……この街で信用出来る男と言えば、もうお前ぐらいしかいない」 「私自身……これ以上プライベートで親しい男を増やすつもりは無いしな」 「お前は……私の初めてを受け取って貰う為に相応しい人物だ」 「そんな大袈裟な……」 「その……こんな女っぽくない私で良ければ、宜しく頼む……」 ……そう言いながら、真緒さんは深々とお辞儀をしてきた。 これ以上本当に大丈夫なのかという確認を取るのも、鬱陶しいと思われてしまう事だろう。 「分かりました……こちらこそ、精一杯御相手をさせて頂きます」 「ふん……どこまでも礼儀正しい奴だ。 そういう所、嫌いでは無いがな」 「……あと、これだけは言わせてください」 「何だ?」 「実は俺……童貞では無いのです。すみません、こういう事はもっと早い段階から言うべきですよね」 「……」 一瞬だけ驚く反応を見せる真緒さん……しかし、その表情はすぐに仕方が無いと思ってくれているようなものへと変わった。 「構わんさ……こんな繁華街で暮らしていれば、童貞の一つや二つ失って当然であろう……」 「……そう言って頂けると嬉しいです」 「……では、続きをしようか」 「はい……」 「……お前のを触る所からで良いか?」 「……はい」 そうして真緒さんは再びソファから降りて、俺の前でしゃがんだ。 ……それに合わせて、俺もするするとズボンとパンツを降ろす。 「……少し小さくなってしまったな」 「ある程度時間が経ってしまいましたから……」 「しかし、こうすると……」 「んっ……」 「ふふっ、分かりやすく反応しているな……」 そして真緒さんも、再びパジャマを脱いで生の乳房を露わにさせた。 むくむくと再び出来上がっていく肉棒……真緒さんの乳房を見ていれば、完全に大きくなるまでには時間はかからなかった。 「……脈を打っているな」 「……恥ずかしいです」 「こうなってしまったのは私の責任だからな……さっさと楽にしてしまおう」 「っ……」 そして真緒さんは……両手の指先で、ついに俺の肉棒へと触れた…… 「やはり硬いな……そして熱い……」 「勃起という物は……下半身に血が溜まって起きる現象ですから」 「ふむ……まるで別の生き物のようだ……」 「真緒さん……失礼を承知の上でお聞きしたいのですが……」 「何だ?」 「……真緒さんは、性に対しての知識はどれ程ありますか?」 「……!」 俺からの質問を聞いた瞬間、真緒さんは肉棒を両手で挟んだまま、こちらを見ながら目を丸くした。 「バカにするなよ……私は処女だと言ったが、一応は大人なのだ……どうすれば赤ちゃんが出来るかなども、当然知っている」 「……それはそうですよね、大変失礼致しました」 「……そして男性器は今まで見た事が無かったが、どうすれば射精するかも一応は知っている」 「そうなのですか……」 「……こういう風にな」 「っ……」 それから真緒さんは、皮の部分を優しく掴むと、そのまま上下に擦り始めた。 「……っ」 「痛くないだろうか……」 「……少し痛いかもしれません」 「! すまない……これならどうだ?」 「あっ、良くなりました……上手く力加減が出来ています……気持ち良いですよ……」 「ふふっ、そうか……」 「真緒さん……そういう知識は、どこで覚えられたのですか?」 「何となくで知っていただけだ……射精する時は手でも女性器の中でも、とりあえずは刺激を与えれば出てくるものなのであろう?」 「なるほど……っ、真緒さん、確かにアダルトビデオとか見ているイメージ無いですもんね」 「逆に男であるお前は、いつも見ていたりしているものなのか……?」 「俺は……見ないですね、最近では見る機会も時間も無いっ、というか」 「なるほどな……先程から随分と反応をしているようだが」 「すみません……っ、気持ちよくて……」 「ほう……お前、可愛いな……」 最初は申し訳無さそうに、遠慮気味に触れていた真緒さん…… しかし俺の反応を見ている内に、真緒さんの何かを目覚めさせてしまったのか……真緒さんはニヤリと笑いながら、少しだけ手に力を入れた。 ……やがって擦っている音も、クチュクチュと水分が含まれているような物へと変わっていく。 「うっ……ふっ……」 「……もっと楽にしていて良いのだぞ? 今のお前、とても苦しそうだ」 「それは真緒さんのせいではないですか……」 「ふふっ……沢山出そうだな……」 「うぅ……」 「……しかし、このまま射精されては、私の服が汚れてしまうな」 「と……言いますと……?」 「……男は手で弄られるよりも、口の中で舐められたりするのも好きなのであろう?」 「なっ……!」 そう言うと真緒さんは……舌先でペロリと亀頭部分を舐めた後、すかさず肉棒を口の中に咥えた。 そのまま舌先でチロチロと舐め回しながら……真緒さんは切なそうに、俺の方を見上げながら顔を真っ赤にしている。 「まっ、真緒さん……! 」 それが引き金となって興奮を更に加速させ、快感の大波に耐えられなくなったしまった俺は……思わず真緒さんの頭を手で抑えてしまう。 「これが……仁藤の味なのだな……」 「そんな事されたら……来ちゃい、ますっ……!」 「ぷはぁ……いいぞ、我慢が出来なくなったら果ててしまっても……」 「そうしたら……私が口で受け止めてやる……はむっ、んんっ……」 「まっ……真緒さっ……あっ……」 「ふっ……むっ、ふっ……」 「あっ、あっ……あっ……!」 そして口で受け止める話をするが最後、俺の言う事を聞かなくなった真緒さんに責められ続け……力を抜いた瞬間、奥から熱いものが混み上がってくるのを感じた。 ……そしてその刹那。 「……んんっ!?」 「あっ……あぁ……っ!」 絶頂をすると同時に、理性を抑えると共に溜まるに溜まっていた精液が、真緒さんの口内へと射精された……。 「はぅ……あ……」 「ふぅ……ふっ……」 俺が絶頂中に悶えている間も……真緒さんは先端に残っている精液も拭き取るように、ぺろぺろと舐めまわしていた。 「……ぷはぁ」 そして真緒さんは口とペニスの間に糸を引かせながら……満足して少ししなったそれから口を離した。 口元からつーっと漏れる精液……それを真緒さんは指で拭き取ると、それも舌で舐め取る事で除去した。 「はぁ……はぁ……」 真緒さんの舌責めから解放されて……ぐたりとソファの背もたれに寄りかかる。 これも酒の力なのか……初めて見て、初めて触れた割には、淫らさを感じさせる程の腕前であった……。 心無しか、一連の流れによって真緒さんの酔いが加速しているかのようにも見える。 そして今の俺の姿を見て……真緒さんは再びふふっと笑った。 「どうだ……これがフェラチオという行為なのであろう? 気持ちが良かったか?」 「っ……」 まるで勝ち誇ったような……お前を絶頂させる事など大した事無いと思っているような表情で、座ったまま俺を見下ろしている真緒さん…… ……ここに来て、真緒さんのプライドの高い性格が現れた。 「はい……お陰様で……真緒さん、本当に初めてだったのですか……?」 「ああ、本当に気持ちが良かったのだな……精液を出しすぎだ、危うくむせかける所であったぞ」 「……すみません」 その表情、態度を見て……俺の中で、変なスイッチが入り始める。 相手が歳上と言えど……現時点で男としてのプライドを崩されたような気分であった。 「さて……俺ばかり気持ちよくなってしまっていては、申し訳がないです」 「えっ……」 「……今度は、俺が真緒さんを気持ちよくさせて頂きますよ」 「……えっ?」 ……このまま、初体験の真緒さんに一方的に責めやられてたまるか。 ……あまり威張れる事でも無いが、こちらの方は真緒さんとは違い、何回も性行為を体験してきている身だ。 いつも斬江に指示されている責め方を……真緒さんにも実践してみたらどうなるか。 「きゃっ……」 「……真緒さん」 「に……仁藤……?」 真緒さんには既にイカされたから大丈夫だという理論を盾に……俺は真緒さんを本能のままにソファへと押し倒した。 「……真緒さんが、いけないんですからね」 「なっ……何をする気 「っ……」 「むぅっ……!?」 これ以上生意気な口を効けないように、手始めに接吻で真緒さんの口を塞ぐ。 突然の不意打ちに戸惑う真緒さんの舌……それを逃がさんと言わんばかりに、舌で絡めとって抜け出させない。 「んーんぅ〜っ……!!」 苦しそうな声でジタバタと暴れる真緒さん…… 彼女は警察……もし嫌がっているのであれば、真緒さんはとっくに俺に対して物理的行使を執行していた事だろう。 「んっ……はっ、んんっ……」 しかし真緒さんは嫌がる事無く……むしろ唾液の音を出しながら真緒さんからも舌を絡めてきたりと……俺からの責めを、なすがままに受け入れていた。 「……ぷはぁ、はぁ、はぁ……」 ……暫くして、もう暴れなくなった真緒さんから唇を離す。 「はぁ……はぁ……」 ……真緒さんはとろんとした涙目になっており、俺の下で腕を寄せて、息を荒くしながら大人しくしていた。 「なんだ……それ……そんなキスの仕方、私は知らないぞ……」 「可愛いですよ……真緒さん、お顔が真っ赤です……」 「うるさい……誰のせいだと思っているのだ……!」 「もっと気持ちよくしてあげますからね……」 そうして今度はパジャマを開いて、真緒さんの乳房全体を空気中に晒す。 「な、何を……」 重力により、左右へと流れる真緒さんの乳房……本人はこれから、それを揉まれたり吸われたりされると思っていたであろう。 「……」 ……しかし、いきなり敏感な場所を責めて、すぐさま真緒さんを絶頂する流れでは面白くない。 「ひうっ……!?」 胸は触らず……舌をぺとりと真緒さんの鳩尾に着地させる。 「はうぅ……」 「……力を抜いて楽にしていて下さい」 「ふっ……ふっ……」 そのまま舌を下半身に向けてなぞり……真緒さんをジワジワと追い詰めていく。 それと同時に真緒さんのズボンとパンツに手をかけて降ろす。 「んんっ……」 真緒さんはふるるっと体を震わせながら……俺からの責めに耐え続けていた。 もう真緒さんには抗う力も残っていないという事か。 ズボンとパンツが完全に足から離れて……膝に手を置いて足を広げようとしても……彼女は抵抗する事無く、俺に陰部を見られようとしているのを眺め続けていた。 「っ……」 そうして露わとなった、真緒さんの汚れを知らない蜜花……陰毛に包まれたそれは、まだ触れてもいないのに真っ赤に染まっている。 真緒さんは片手で自身の口元を隠しながら……初めて男に秘部を見せているという羞恥心に悶えていた。 「真緒さん……綺麗ですよ……」 「うるさい……お前、顔が近いぞ……」 「……先程の真緒さんも、これくらい近くから俺のを見ていましたが」 「うう……」 「リラックスしていて大丈夫ですよ真緒さん……俺に任せてください……っ」 「んんっ……!!」 そして俺の言葉に真緒さんが微かに頷いたのを確認した後、俺は舌先で真緒さんの花弁に触れた。 ガシガシと激し目に舐め回すのでは無い……舐めるというよりは最早撫でるように、舐める度に溢れてくる愛液を味わうように責めていく。 「ひゃっ……あぁ……っ」 俺がフェラをされた時とは比べ物にならない、快感の大波が押し寄せて来ていそうな真緒さん……彼女も俺の頭を両手で抑えて、ビクビクと震えながら喘ぎ耐えていた。 「大丈夫ですか……? 痛くないですか……?」 「いた……くは無いが……っ」 「良かった……この調子で責め続ければ問題無さそうですね……」 「そもそもまだ……っ、私は舌で舐めたりするのは許可していな……っ、ひぁっ!?」 「んっ……ふっ……」 「ばっ、ばかっ……舌を入れるな……吸うなぁっ……!」 「可愛いです……真緒さん……っ」 「おまっ……えっ……! どうしてそんなに、上手なのだ……っ!」 「責めれば責める程濡れてきていますね……真緒さんも、イキたいときにはいつでもイッていいですよ」 「ぐっ……うぅ……」 ……やがて真緒さんは口元を抑えて、喘ぎ声を出すのを我慢するようになった。 しかし声では我慢をしていても、体は正直というやつだ……真緒さんの膣壁は、悦んでいるようにきゅうきゅうと舌を締め付けてくる。 「ふぅぅ……!」 そして声を抑える事に我慢が出来なくなったのか、真緒さんは息と共にそうして声を漏らすと ……手は口に当てたまま、真緒さんは愛液をかき混ぜる音に負けてしまうくらいに小さな声でこう呟いた。 「……く」 「……何ですか?」 「……イく」 「……よく聞こえません」 「!……イくと言ったのだ……ただでさえ恥ずかしいのに、何度も言わせるな……」 「分かりました……今度は真緒さんのイく所……俺に見せて下さい……」 「んんん〜……」 ……そうして舐められたまま、一度ぶるっと身震いをさせた刹那。 「あっ……あっ……あっ……」 「真緒さん……っ」 「んんん〜っ……!!」 ぷしゅっと、一気に愛液が噴出し……俺の口の中へ流れ込んでくる。 それと共に真緒さんはがくがくと腰を浮かせて震わせながら……俺は無事、彼女を絶頂まで導かせる事が出来た。 「はぁ……はあぁ……」 真緒さんの蜜花から舌を離した直後……真緒さんはぐたりと腰をソファのシートに沈ませた。 愛液はまだチョロチョロと漏れており……その流れはソファのシートへと続いており、辿り着いた先ではシミが出来ていた。 「はぁ……はぁ……」 ……徐々に息遣いが落ち着いてきた真緒さん。 快感の余韻に浸り終わった彼女は涙を流したまま……続いて俺の方をキッと睨みつける。 「き……貴様……よくも……」 「ふっ……これでおあいこですね、真緒さん」 「変な声を……沢山出してしまったでは無いか……!」 「変な声だなんて思っていません……むしろ可愛くて、普段の真緒さんとは違うのでかなり新鮮です」 「ぐぬぬ……」 そっぽを向いて恥ずかしがる真緒さんに……俺はよく頑張ったねと、メッセージを込めるように彼女の頭を撫でる。 「……痛くは、無かったんですよね?」 「痛くは無い、痛くは無かった……だが人に果たして貰うのは初めてだったから……怖くて……」 「ああ……なるほど……」 それから目を逸らし、体を起こしながらぐすっと涙を流す真緒さん…… そんな彼女が起き上がるのを手伝いながら……俺はそのまま彼女を優しく抱き寄せた。 「すみません真緒さん……真緒さんのペースに合わせるべきでしたね……」 「本当だ……でも……」 「でも……?」 「……気持ち良かったし……激しくされるのも、悪く無かった」 「真緒さん……」 そして真緒さんを抱き締めたまま頭を撫でていると、真緒さんの方からもぎゅーっと抱き返してきた。 「真緒さんは……普段から、その……自分でしたりするのですか……?」 「……たまに」 「なるほど……今まで自分でしか触れてきた事が無い物を他人に触れさせるのは、どのような物でも不安になります」 「……しかし仁藤は上手だったし」 「人に果てさせられるというのは……ああいう感覚だったのだな……」 「……恐縮です」 それから真緒さんはもっと抱きしめて欲しいと言わんばかりに、俺の背中に巻いている腕に少しだけ力を入れる。 お互いに言葉を発さなくても……どれだけ信頼し合っているかという事が分かる。 「……仁藤」 そしてその沈黙を先に破ったのは真緒さん……彼女は俺の胸元で顔を埋めながら俺の名を呼んだ。 「……何ですか? 真緒さん」 「臭い」 「えっ……!? あっ……」 ……今思えば、真緒さんはお風呂に入ったが、俺の方はまだ風呂に入っていない。 真緒さんをどうやって気持ちよくさせるか、その事だけに集中していたので気が付かなかった……俺は、真緒さんの初夜を体がベトベトのまま相手をしようとしていたのだ。 「これは失礼しました……あの、今からでもお風呂場借りられますか?」 「……行く」 「……えっ?」 「私も行く……」 「えっ……ええ……」 「誰かさんのせいで汗をかいてしまったのでな……お互いに待つのも面倒だろうし、ここは二人まとめて一緒に入ってしまおう」 「……すみません」 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 「……ふむ、やはり二人で入ると狭いな」 「あの……でしたら俺は後からでも良いので、先に真緒さんだけでシャワーを使ってください」 「別に構わん、立ったままでも体は洗えるしな……それとも、お前の方が一人でシャワーを使いたいという事か?」 「いえ、そういう訳では……」 ……二人で入る、先程真緒さんが使用していた為に、まだ微かに暖気が残っている一人用の浴室。 目の前にいる真緒さんは、身を包む物が無くなり……正真正銘の全裸だ。 その状態で見る、先程の乳房や陰毛も違った表情に見える……そしてそこを流れる数滴の汗が、俺の性欲の火に再び油を注ごうとしていた。 「……俺は別に構いませんが、真緒さんは俺とお風呂に入って大丈夫なのですか?」 「私も構わん……もう全て見られたし、今更恥ずかしがる必要もあるまい……」 「なるほど……」 「……だからと言って、見すぎるのもどうかと思うがな」 「……あっ、すみません」 「……折角だからお前の体は私が洗ってやろう」 「良いんですか……? ありがとうございます」 そうして真緒さんはシャワーを壁にかけて、お互いに湯が届く範囲の位置に調節した。 バルブを捻り……そこから噴出するお湯が、俺達に向かって均等に降りかかる。 「……温度はこのくらいで大丈夫か?」 「はい、大丈夫です……温かいです……」 「うむ……まさか一日に二度も風呂に入る事になるとはな」 「すみません……」 「もう謝らんでも良い……別にそうでも無い場面なのに、必要以上に謝ってしまうのがお前の悪い癖だぞ」 「すっ……はい、分かりました」 「今言いかけていただろう?」 二人の間でもくもくと湯気が上がる中……真緒さんは垢擦りにボディーソープをつけている。 「では早速体を洗ってやる。 向こうを向け仁藤」 「分かりました……お願いします」 そうして真緒さんは俺に背中を向けさせて、彼女はその部分に垢擦りを当てた。 「強さはこのぐらいで大丈夫だろうか……?」 「はい……気持ちいいですよ」 「それにしてもお前の方も身が引き締まっているな……流石は日頃から肉体労働に鍛えられているという事か」 「真緒さん……」 真緒さんは俺の背中を洗いながら、片方の手で俺の肌を撫でたり啄いたりしているようだった。 「そら、背中は終わったぞ……前を向け」 「分かりました」 そして真緒さんの方を向いた事で、再び全裸の彼女が視界に飛び込んでくる。 「ふむ、流石に腹筋も中々の物だな……余計な脂肪が一切ついていない」 「真緒さん、擽ったいです……あと、時々おっぱいが当たってしまっています」 「む……狭いのだから仕方が無いであろう、間違っても意識して当てている訳では無いからな?」 あと数センチ……身体を少し倒せば、真緒さんとキスが出来そうなぐらいに身を寄せ合う。 真緒さんは俺から目を逸らして、不自然に排水溝の方を見ながら垢擦りを動かし続けていた。 「なぁ仁藤……」 「何でしょう……」 「その……エッチというものは、本当は恋人同士になってからやるものでは無いのだろうか……」 「……」 「これ以上続きをしたくないから言っている訳では無いのだぞ?……ただ、私が今まで思っていた順序と大分異なっていてな」 「……確かに正式にお付き合いをするようになってから、エッチをするのが普通だと思います」 「で、では……」 「しかし交際というのはあくまで形式的なもの……お互いが愛し合っているのであれば、先にエッチからしても大丈夫だと、俺は思います」 「そうか……」 「それに出来ちゃった婚という言葉や、一回寝たぐらいで恋人だと認識して欲しくない人達もいるみたいなので……そういうイレギュラーがある事はよく聞くお話です」 「……私は仁藤の事、好きだぞ」 「!……本当ですか?」 「当たり前であろう……それだけ思っていなければ、最初から部屋にすら入れていないわ」 「そこからなのですね……」 「うむ……私はその場の雰囲気に流される程軽い女では無い、それだけは思わない事だ」 そう言って真緒さんは俺の方に目を合わせてきた……。 何か強い意志を感じる瞳……その奥には、少しだけ切ないような恥ずかしがっているような台詞も含まれていた。 「だからお前には……その、そんな私が選んだ相手だからこそ、後悔をしないような思い出を残させて欲しい」 「……痛くしたりしたら、許さないんだからな」 「真緒さん……」 どこまでも自尊心が高い真緒さん……そんな彼女が俺の事を好きになってくれたのが、今でも信じられない。 「……しかし今の所、痛いと感じた事は無い……それ程、お前の事が好きで気持ちいいと感じられているという事だ」 「当たり前です……俺も真緒さんの事、大好きですから……大事にしたいですから……」 「むっ……」 「こんな自分を好きになってくれた……真緒さんの事が大好きです」 「仁藤……」 少し厳しい表情をしていた真緒さんの表情が和らぐ……その分大胆な告白をされて、恥ずかしさの割合の方が強くなった。 「……そんなに勃たせながら言われても、変な意味にしか聞こえないのだが」 「……あっ、すみませんいつの間に……」 「ふっ……一丁前の台詞を言っても、所詮お前も男だという事だ」 「うぅ……」 「……良いぞ」 「えっ……?」 「……お前の事はよく分かった」 「その気持ちを……私が受け止めてやるから、遠慮なくぶつけてくると良い」 「真緒さん……」 ……真緒さんの言葉、行動により、既に俺の下半身は再び生殖の準備を整わせていた。 それは今すぐにでも挿入したいと言わんばかりに……真緒さんの陰毛に包まれている蜜花に向かって勃っていた。 ……真緒さんもその様子を見ながら覚悟を決めているようであった。 「……勿論がっついたり、痛くしたりしたら許さんが」 「……はい、勿論です」 「それが分かったら……こい、仁藤……」 「真緒さん……」 シャワーの音が響いてる中……俺達は徐々に顔を近付かせて、改めてお互いの唇同士を触れさせた。 今度は不意打ちでは無い……二人で同時にスタートを切った事で、真緒さんの方からも進んで舌や唾液を絡ませてくる。 「はぁぅ……はっ……んっ……」 「真緒さん……っ……ふっ……はっ……」 「仁藤……お前はっ……んっ……私のモノだ……っ……」 「まおさっ……んぅ……ふっ……」 もう恥ずかしさなどない……お互いに相手を味わい、名前を呼び合う事で……二人の愛を確かめ合う。 「ぷはぁっ……はぁっ……はぁ……」 「……真緒さん」 「……なんだ」 「ここで……したいです……」 「っ……仕方の無い奴だな……」 「……はい、すみません」 「……分かった、が……最初から顔を見られながらするのは恥ずかしいのでな……挿入れるなら後ろからにしてくれ」 「……良いんですか?」 「構わん……んっ……これはこれで恥ずかしいな……」 そうして接吻後……もう前戯を済ませていた俺達は、いきなり挿入から再開させようとしていた。 これからお互いから発せられるであろう喘ぎ声をかき消す為に、俺の体に着いた泡を流すがてらシャワーを出す。 ……真緒さんは壁に両手を組みながら寄りかかると、こちらに柔らかそうな白いお尻を向けた。 「では……入れますよ、真緒さん」 「うむ……良いぞ……」 「んっ……」 「あっ……ああっ……!」 ……そうして、先端が真緒さんの蜜花に触れた瞬間。 肉棒はずぷずぷと蜜壷の中に入っていく…… 真緒さんの膣内は先程舌で慣らしておいたお陰で濡れており、途中でつっかえる事も無く、お互いの陰毛が触れ合う一番奥まで挿入する事が出来た。 「真緒さん……っ」 「仁藤……ああ……っ、私達はついに、一つになってしまったのだな……」 「はい……」 「そして私も……もう処女では無いという事だ」 「真緒さんの初めて……大切にします……それで、大丈夫ですか……?」 「っ……まだ苦しいかもしれん……」 「分かりました……俺は待ちますので、真緒さんが動いていいタイミングになったら言ってください」 「ありがとう……」 そう、挿入した後に男側はすぐに動いてはいけない。 挿入した後暫く待って、鞘側に刀の形を覚えさせて合わせて貰う必要があるのだ。 それまでは静止して、真緒さんと会話をして時間を稼ぐ。 「真緒さんの膣内……温かいです……」 「お前の方は熱く感じるぐらいだ……大きくて、硬くて……余程私に対して興奮してくれているのだな」 「それはそうです……今の真緒さん、エッチですから……」 「エッチなのはお前の方だ……私を責めている時は、まるで獣のようであったぞ」 「それは……最初から真緒さんがエッチだったからです。 俺はそれに誘発されただけで……」 「ふむ……自分で仕出かした事とは言え、酒の勢いというのは恐ろしいものだ」 「まだ酔っ払っていますか……?」 「……もう覚めているぞ」 「えっ……」 「だから今日私が起こした行動も、言動も後々になって後悔するつもりは無い……今思えば少しだけ恥ずかしかったが……」 「……なのであの時は酒の力を借りて言った訳では無く……ちゃんと本心でも思っている事だから、安心して欲しい」 「真緒さん……ありがとうございます……」 「……そろそろ、動いてもいいぞ」 「……分かりました」 ……そしていよいよ、一度静止した興奮を再スタートさせて本番が始まる。 「っ……」 「……まずはゆっくり、動いてみますからね」 「……頼む」 真緒さんを抱き締めながら……ゆっくりと前後運動を開始する。 挿入時もすんなりと入った為……血を滴らせながらでも、今の所はスムーズに動かせる事が出来ている。 「あっ……あっ……んっ……」 「真緒さん……気持ちいいですか……?」 「いい、感じだ……私達、本当にセックスをしてしまっているのだな……」 「真緒さん……好きですよ……」 「っ……それやめろ、心臓に悪い」 真緒さんの痛みはやがて快感へと変わり、真緒さんは動く度にきゅうきゅうと肉棒を締め付けている。 「……っ、もう少し、早く動いてもいいかも……」 「……分かりましたっ」 「……あ」 ……やがて加速していく事で、ぱんぱんと真緒さんのお尻とぶつかっている音が発生するようになる。 「あんっ、はっ……んん〜……っ」 「真緒さん……真緒さん……っ」 いつものクールな低音な声とは違い……真緒さんは乙女らしい高い声で喘いでいる。 ……そのギャップが、俺の興奮を更に加速させる。 「真緒さん……真緒さん……!」 「ちょっ……まっ……あんっ……!」 「はっ……はっ……!」 「いき……できなっ……!」 「あっ……すみません……!」 真緒さんの救援により、慌てて速度を下げる。 「お前……また獣になりかかっていたぞ」 「……すみません」 「あれではまるで……私が一方的に犯されているみたいでは無いか」 「……バックからする事で、その雰囲気がより一層増しますね」 「……では前からやるがいい」 「えっ、良いのですか?」 「ああ……私の方も、お前の愛が激しすぎて、壁へと胸が押し付けられて苦しいのだ」 「……すみません」 「……顔の方は、くれぐれも見るなよ」 そうして真緒さんから一度肉棒を抜くと……真緒さんが前を向いて片足をあげた状態で、再度ペニスを挿入した。 「ん……んぅ……」 「もう……いきなり動いてもっ……苦しく無さそうですか……?」 「ああ……それはそうだが、前からしていると……色々と見えるのだな……」 「……そうですね」 後背位の場合……背中やお尻といった部位が、興奮を高める為の引き金となる。 ……しかしこれが今度は前からとなると、挿入口、揺れる乳房と、先程よりも刺激が強すぎる部位が色々と目に入ってくる。 「はっ……はぁっ……」 ……そして何よりも、動いている時の真緒さんの蕩けている表情。 今にでも舌が出てきそうな気持ちよさそうなそれを見ていると……俺の方も物凄い勢いでギアが上がっていく。 「真緒さん……可愛いです……っ」 「むっ……顔は見るなと言ったであろうが……っ」 「真緒さん……先程自分は女らしくないと仰っていましたが……全然そんな事無いです」 「今の真緒さん……凄く女の子らしいお顔されてますよ……」 「っ……うぅ〜っ……」 恥ずかしいから、真緒さんは何度も歯を食いしばったまま俺から目を逸らしてしまう。 しかし責めていると、真緒さんの表情が徐々に蕩けてくる……。 今の真緒さんの中では、羞恥心か快感に従うかで争っていそうであった。 「そんなに抑えなくても、大丈夫ですよ真緒さん……」 「なん……だとっ……?」 「おまんこも凄い締め付けてきますし、気持ち良さそうなのもバレバレです」 「っ……貴様っ……」 「もっと堪えずに……真緒さんの中の、本当の女の子を見せてください……」 「ちょっ……んんっ……!?」 気持ちいい癖に我慢している様を見ていると、それが可愛くて理性の壁を剥がすべく、苛めたくなってしまう。 俺は真緒さんの頬に手を置いてこちらを向かせると……繋がったままで、真緒さんにキスをした。 「はぁうっ……はうぅん……っ!」 「真緒さんの舌……熱いですよ……」 「むうぅ……ふっ……はっ……」 俺に首を固定されて、逃げ場が無くなった真緒さん…… 彼女は抵抗するように声を荒らげていたが……本能に従いつつあるようで、俺に対して下品に舌を絡ませてきている。 「ふうっ……ぷはぁ……はぁぁ〜……っ」 「いいですよ真緒さん……っ、こちらを向いて頂けた方のままが……俺は好きです……」 「にとう〜っ……ふっ、うっ……」 そして唇同士を離す頃には……真緒さんに抵抗する意志は感じられず、俺から言われた通り本能のままに快感に浸っていた。 このままもっと激しくしたい……だが立ったまま続けると、俺も真緒さんも疲れてきてしまう。 「ふぅっ……はっ、やっ……」 真緒さんは俺に突かれながら、自身の身体を支えているたった一本の足を、ぷるぷると震わせていた。 「ここでしていると、足が疲れてきてしまいますね……ベッドの方に、移動しませんか……?」 「……うん」 それからシャワーを止めると、俺達はベッドの方に移動した。 随分と大人しくなった真緒さん……彼女ははぁはぁと息を荒らげたまま、その胸を抑えながら、俺が手を引く事で着いてきている。 「ここに寝転んでください……」 「ぁ……」 そしてゆっくりと真緒さんをベッドに寝かせる…… 彼女は大の字で寝転び、覆い被さる俺の方を見つめながら……俺が足を開かせて挿入されるのを、ただただ待ち続けていた。 「今度は……そうか、正常位というやつだな……」 「はい……そろそろ、イッてしまうかもしれないので……」 「私も同じかもしれん……決着を、つけるのだな……」 「はい……」 それから真緒さんを抱きしめながら、再度ペニスを彼女へと挿入させる。 もう真緒さんは痛がる様子も苦しがる様子も無い。 早く動いて欲しい……そう言わんばかりに、我が肉棒を欲するように、真緒さんの蜜壷は締め付けてくる。 「はっ……はっ……」 「あっ……ああっ……」 今度は強めに腰を振り始めて、真緒さんの腰に叩きつかせてみる。 喘ぐ度に頬を染めて、目を潤わせる真緒さん…… 先程よりも胸や腹……全てが密着した状態なので、真緒さんを自分のものにしたような気持ちが強くなる。 「はっ……あっ……あぁ……気持ちいい……っ」 「!……気持ちいい、ですか……?」 「うん……仁藤の愛……気持ちよくて、温かくて……このまま……溢れてしまいそうだ……っ」 「真緒さん……っ、真緒さん……!」 「仁藤……! にとう……っ!」 「……」 俺が沢山突く事で証明している愛を……真緒さんは抱き締め返す事で応えている。 その真緒さんの健気さ、どんなに俺が本能的になっても受け止めてくれるような寛容さを感じて……ベッドの上にいる事により、リミッターが外れたのを感じた。 「……真緒さんっ!!」 「ひゃっ……!?」 「はっ……ふっ……んっ……」 「ちょっ……あっあっ……はげしっ、んっ……やっ……だめっ……!」 「んんっ……ふっ、ふっ……」 「あんっあんっあんっあんっ……」 ……ついに興奮のギアも最頂点に達した。 俺が激しく腰を動かす度に、真緒さんもそれに合わせて喘ぎ声を出している。 ……もう俺に、真緒さんの痛みに気遣う気持ちは残されていない。 ただ俺は……真緒さんに気持ちを受け止めて貰う為に、真緒さんを愛する為に、己の性欲を解消する為に腰を振り続けた。 「はっ……あんっ、あんっ……にとう、にとう……っ!」 しかしそうしても尚、真緒さんは俺からの愛に応えようとする。 ……そしてそれに応え返す為に、俺も真緒さんにそれ以上の愛を投げつける。 「真緒さん……真緒さん……っ……真緒っ!」 「っ!?」 「真緒……! 愛してる……っ、俺の……女になってくださいっ!」 「むっ……!? おま、えっ……それ……ずるいっ……!」 「……そろそろ、イキますよっ、真緒さん……良いですか……?」 「……うんっ、私も……もうダメだ……イカせてくれっ……大和……っ!」 「!?……真緒っ……真緒! 真緒……っ!」 「大和……大和、大和……っ!」 そうして俺達は、互いに名前を呼んだまま…… 俺は真緒さんの腰に、自身の腰を押し付けて…… 「はっ……あっ……いく……いくっ……!」 「あっ……いくっ……私も……いくぅっ……!」 「ふぅっ……!!」 「んんんっ〜……っ、〜〜っっ!!」 そのまま……俺は真緒さんの膣内に射精をした。 どくどくと真緒さんの膣内に流れる精液…… 一度出したにも関わらず……腰がビクッと震える度に精液が出てくる…… それを真緒さんの膣癖が搾り取りながら……同じくビクッと腰を震わせながら、真緒さんの蜜壷は一滴残らず飲み干していた……。 「はぁ……はぁはぁ……」 「んっ……ふぅっ……うっ……」 それからベッドに沈み、軽く痙攣を起こしている真緒さんから、全てを出し切ってへなへなに戻ったペニスを抜く…… 今度は真緒さんの奥へと流れていかなかった精液が、外へとどぷっと流れてくる…… その光景は、正しく真緒さんを女として目覚めさせて、彼女を自分のものにした証明でもあった……。 「ふぅっ……ふっ……貴様……っ……んんっ」 ……しかし、それを行動に移したからには、それなりの覚悟を抱いているという事になるデメリットも伴う。 「……あっ」 「ふぅ……ふぅ……激しすぎだ……」 「……それと貴様、構わず膣内に射精してくれたな」 「……すみません」 「まぁ今日は安全な日だから良かったものの……相手の確認もせずに、膣内射精をするなどただのクズだからな」 「……本当に、すみません」 「……だがそれぐらい、私に対して夢中だったという事であろう」 「……まさか名前を、呼び捨てで呼ばれるとは思っていなかったが」 「……」 「……それは、悪くなかった」 「真緒さん……」 それから俺が真緒さんの陰部をティッシュで拭いた後、ベッドも軽く拭いて……俺達は二人して全裸のままベッドに座り……夜伽の感想について語り合っていた。 「……ついに最後までしてしまったのだな、私は」 「はい……膣内に出してしまったのだけはすみませんでした」 「もう過ぎてしまった事は良い……次から気をつければいいだけだ、今回は気にするな……」 「……ありがとうございます」 「……それと、お前の先程の台詞」 「……はい?」 「私が……お前の女になって欲しいというのは、本気なのだな……?」 「……勿論、それにその前に……真緒さんも俺はもう私のものだと仰っていたので、そこから既に本気でした」 「……あれは、つい感情的になって言ってしまったというか……まぁ本気ではあったが」 「……こんな私で良ければ、引き続き宜しく頼む」 「はい……こちらこそ、宜しくお願いします」 「うむ……二人で狭いだろうが、良かったら今日は、二人で一緒にベッドで寝ないか……?」 「勿論……そうさせて頂きます」 それから真緒さんが電気を消して……俺達は横になって布団を被った。 「……やはり色々当たってしまっていますね」 「何を今更……もう気にする事も無かろう」 「ですが温かいです……真緒さんの身体……」 「お前の方もな……これは暖房いらずかもしれん」 「……お休みは先程も言いましたが、このまま明日まで続くのです」 「そうか……では明日、二人で何処かに行くか……」 「俺もそう言おうと思った所です……」 「何処にしようか……」 「何処にしますか……」 「……少し田舎の方に、行ってみても良いだろうか?」 「……分かりました、良いですよ」 俺達の交際を、お互いに許し合っても……それを許さない者達が周囲にはいる。 その事を今は気にせずに……それから俺達は明日何するかの夢を見たまま、眠りについたのであった……。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ……翌日。 「……っ」 ……先に起きたのは俺の方であった。 「……」 真緒さんの部屋の天井を見て……昨晩にしていた事が記憶に甦ってくる。 「すーっ……すーっ……」 ……隣で寝ているのは、裸の真緒さん。 クリスマスの真冬の寒さにも関わらず……俺達は互いに抱きしめ合って寝ていたおかげで、風邪は引いておらずむしろ体調がいい。 「んっ……寒い……ん……?」 「……おはようございます、真緒さん」 「おはよう……大和……」 「おお……名前で呼んで頂けるのですね」 「それはそうだ……私達は、一応交際関係であるのだからな」 目覚めて早々、真緒さんは恥ずかしそうな表情を浮かべながら身体を起こす。 「……朝ご飯の方はどうしますか?」 「外で食べる事にしよう……今日は今すぐにでも、何処かに出掛けたい気分なのだ」 「分かりました、賛成です」 それから俺達はベッドから離れて、そそくさと服を着て、外へ出る為の身支度を整える。 ドアを開けて、そこから差し込んでくる朝日に、二人して目を細ませる……。 「……良いお天気てすね」 「ああ……絶好のお出かけ日和というやつだ」 「それで……田舎でしたっけ、具体的にはどの辺りですか?」 「それは駅に行ってから決めれば良かろう、ではとっとと行くぞ」 「あっ、待ってください真緒さん」 そして真緒さんは階段を素早く掛け降りる。 まだ昨晩の事実を受け入れられていないのか……恥ずかしがっているのか、俺の事を避けているような態度であった。 「……クリスマスだと、駅の方は朝からでも人でいっぱいいそうですね」 「……そうだな」 「電車とか……遅延していなければ良いのですが」 「……そうだな」 「あっ……」 そうして二人で並んで歩いていると……真緒さんは不自然な流れで俺の手を握ってきた。 まだ男との交際の仕方に慣れていないようで……真緒さんらしい、無理矢理ごり押すような手の繋ぎ方であった。 「何だ……恋人同士であれば、手を繋ぐのは普通であろう?」 「いえ……ただ、いきなりで驚いただけです」 「……嫌だったか?」 「そんな……むしろ良いに決まってます、真緒さんの手、温かいですから……」 「では今日一日中、ずっとこうしているぞ」 「えっ、ええっ……勿論、構いませんよ」 「……人混みに行っても、逸れない為だからな」 「ふふっ……」 「……何が可笑しい」 「ああ、いえ……」 黒と白……二つのコートを風に靡かせながら、俺達は駅へと向かう。 俺達が今、手を繋いでいる光景の……違和感を無くす為に、周囲に少しずつ浸透させなければいけないのが今後の課題であろう。 友人達……そしてお互いの家族達…… 警察と極道……本来なら相入れる事が無い、真反対の属性を持つ立場にいる者達の交際は、そうして始まったのであった……。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 第一部α……真緒ルート〜完〜 二部につづく。
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