婆さんの好きな佃煮

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 食えないおかずなんかあっても仕方ないし、婆さんは『花』を歌い出すし。 ――だからそこは『舟唄』か『おもいで酒』だろ! 呑んでんだからさ!――  俺はいつも心ン中でツッコんでた。  けど、『舟唄』も『おもいで酒』も別れ(うた)だし、しかもかなり難しい歌なんだよな……。  悲しい上に難しい歌がイヤだってんなら、『チャンチキおけさ』とか『お座敷小唄』とか、みんなで歌える酒絡みの陽気な歌でも歌えばイイんだよ。  歌好きの爺さんが、新年会なんかでよく歌ってたから、メロディは覚えちまった。歌詞はうろ覚えだけど。  けど婆さんは酔っ払うと、夏でも秋でも冬でも、 「♪は〜るの〜うらぁらぁの〜♪」  季節感ねえにも程があんだろ。どうしても『花』を歌うってんなら、せめて春だけにしとけ。  ちったぁ空気読めよ、婆さん。
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