空気読めない婆さん

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空気読めない婆さん

 あれは俺が中二の夏休み。おろしたてのアロハシャツ着て出かけようと、玄関で靴を履いてたら、タイミング悪く婆さんに見つかっちまった。 「ちょっと銀ちゃん!」  ああ、もう! 今から出かけるって時に。 「そのシャツ!」  婆さんは驚いたような顔で、俺のアロハを指差す。  あんだよ、派手だとか小言でも言う気か? これはアロハっつってもかなり控えめな柄なんだぞ。  そしたら婆さん、 「イイじゃないのさぁ」  って満面の笑みで。上の前歯の金歯が光ってる。 「へ……?」  俺が拍子抜けしてると、「イイ柄じゃないのさぁ」とまだ言ってる。 「あ、あんがとよ」 「やぁ、イイ柄だねえ」  まだ言い続ける婆さん。用件を言え。わざわざ引き止めた用件は? 「うーん。イイ柄、イイ柄」  用件はそれか? それを言いたかっただけか? 用は済んだか? まだ気が済まねえか?  婆さんがいつまでも同じ事言ってっから、俺は足止め食らったまんま。イライラする。江戸っ子は気が(みじけ)えんだよ。
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